研究実績の概要 |
本研究の目的は、①脳卒中後の歩行運動パターンのタイプ分類を図ること、②障害特性に考慮した歩行障害の改善手法を考案することである。本年度は、②について、①によって同定されたタイプ分類ごとの、1)慢性期脳卒中対象者のトレッドミル上 での左右独立のベルト速度下でのsplit課題と2)傾斜歩行課題(9名)の歩行データの解析および比較を行った。 ①におけるタイプ分類の結果、健常高齢者と同等に近いタイプA, 歩行速度および運動機能の低下はみられるものの極端な左右非対称性がみられないB, 歩行速度の低下および左右非対称性が顕著なCの3群のタイプに大別された。これら3群のタイプに対して、1)トレッドミル介入(左右独立のベルト速度下において、左右の速度比が1:1.2の課題)と2)傾斜課題(-3度(下り)から3度(上り)の異なる勾配角度条件)を実施した。 解析の結果、1)異なる速度比のトレッドミル課題の介入前後において、A-C群のいずれのタイプも、遅いベルト速度側の下肢の荷重時間(t)および荷重(N)、前方への進行方向の蹴り出しの力が増加した。また、左右非対称性が顕著なC群においては、左右立脚時間および左右ステップ長の対称性への変化が観察された。また、2)傾斜課題においては、A-C各群の多くの対象者が、-3度(下り)の課題において左右ステップ長の対称性への変化が観察された。また、3度(昇り)においては、麻痺側下肢の立脚時間の増加および前方推進力に関連する立脚期における下腿三頭筋の活動量の増加が観察された。 本研究の取り組みによって、環境操作のみで新たな歩行パターンが獲得可能であることが示唆された。これらの知見は、実用歩行獲得後、代償によって非対称性が顕著な慢性期脳卒中患者にとって有益な治療アプローチに貢献できると考えられる。
|