申請者は昨年までに、B16F10メラノーマ細胞株を用いた担癌モデルにおいて、野生型マウスと比較してFABP5欠損マウスの腫瘍径が有意に抑制されるという結果を得ていた。さらには、FABP5欠損マウス由来の腫瘍組織では、腫瘍細胞の拒絶に必要なCD8陽性T細胞の割合が増加した一方で、制御性T細胞 (Regulatory T cell; Treg)の割合が減少する、という興味深い知見を見出した。この知見は、これまでのpDCとFABP5の関係性に加え、FABP5を欠損した形質細胞様樹状細胞 (plasmacytoid dendritic cell; pDC)が末梢でTreg分化を誘導しやすいことを示唆している。 本研究では引き続き、pDCにおけるFABP5を介した脂質恒常性が免疫応答に及ぼす影響について焦点をあてて研究を実施した。 野生型およびFABP5欠損マウスから採取した腫瘍組織内におけるpDCの割合に差は認められなかった。しかしながら、B16M10メラノーマ細胞株の培養上清を添加した際と同様に、腫瘍内のFABP5欠損pDCは、I型IFNやIL-6の発現が亢進する一方で、Tregの誘導に関与するTGF-βやIDO-1の発現が有意に低下していた。また、野生型またはFABP5欠損マウスから単離したpDCと、コンジェニック野生型マウスから精製したナイーブCD4陽性T細胞を共培養してTregを誘導したところ、FABP5欠損マウス由来のpDCはTregの誘導が顕著に減少した。またFABP5欠損pDCに誘導されたTregは、Foxp3の発現が減弱しており、免疫抑制能も低下していることが明らかになった。以上の事から、pDCにおけるFABP5を介した脂質恒常性が末梢でのTreg誘導に対して影響を及ぼし、免疫応答の制御に関与するという新たな免疫機構を明らかにした。
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