研究課題/領域番号 |
20K19633
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研究機関 | 筑波大学 |
研究代表者 |
堀 大介 筑波大学, 医学医療系, 助教 (10823693)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | 感謝 / ポジティブ心理学 / メンタルヘルス / 互恵性 / 労働者 |
研究実績の概要 |
本研究課題では、当初の目的として三段階の研究を設定した。すなわち、【研究1】主観的健康指標をアウトカムとした横断研究、【研究2】客観的健康指標をアウトカムとした横断研究、【研究3】感謝プログラムと睡眠日誌とを併用し、不眠度と睡眠習慣にもたらす影響を検討する介入研究である。しかし新型コロナウイルス感染症の影響で当初の計画通りの遂行が困難となったため、軌道修正しつつ進めている。 【研究1】では2020年度に2つのオンライン調査を実施した(回答者: 456名と1200名)。調査では職場感謝尺度を用いて、回答者が仕事に関する事柄についてどの程度感謝を抱いているかを評価したのに加え、周りの人にどの程度感謝を伝えているか、周りの人からどの程度感謝されているように感じるかについても評価した。さらに感染予防行動(手洗い、マスク着用など)の実践度も評価した。 感謝特性が高い(感謝を感じやすい)者は向社会的行動を取りやすいことが先行研究で示されている。そこで、感染予防行動の実践例を従属変数とし、感謝に関する指標などを独立変数として解析を行った。結果、感染予防行動の実践度と職場や仕事に対する感謝との間には統計学的に有意な関連は認められなかった。一方で、感染予防行動をいつも実践している者は、家族に対して感謝を多く伝える頻度が多かった。 さらに、儀礼的感謝行動(気持ちを伴わない感謝の表出)に注目し、上司や同僚のサポートに対する感謝の気持ちの高低と感謝を伝える頻度のギャップを独立変数、不眠尺度を従属変数として解析を行った。結果、両者の間には統計学的に有意な関連は認められなかった。 これらの結果は「職場での感謝が心身の健康に繋がる」という仮説を裏付けるものでは必ずしもなかった。しかし労働者における感謝の役割を多面的に検討した点で有意義であったと考える。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
【研究1】は軌道修正がありながらも順調に進んでいる。コロナ禍に関連した質問項目を追加し、感謝に関する指標との関連性を探索している。テレワークが導入され職場でのコミュニケーションが希薄化した現状を踏まえ、メインテーマであるポジティブなコミュニケーション(感謝)に加え、サブテーマにネガティブなコミュニケーション(いじめ)を設定した。 2020年度に得られたデータをもとに、2021年度は成果発表を精力的に行った。4件の学会発表を行った。さらに論文を執筆し国際誌に投稿中である。本研究課題の助成を直接受けたものではないが、研究協力者らとともに職場の感謝法に関するシステマティックレビューを発表した。社会還元の面では、2件の市民公開講座で講師を務め、コロナ禍で不足しがちな感謝を伝えるヒントをテーマに講演を行った。さらに日本予防医学会メンタルヘルス相談士研修で講師を務め、感謝法をテーマとして講演を行った。 【研究2】や【研究3】に関しては、対面での被験者の募集や説明を計画していたが、コロナ禍で困難となったため、対象者数を縮小して実験計画を新たに策定中である。
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今後の研究の推進方策 |
【研究1】を発展させる形で、コホート研究のベースラインとなる調査を2021年度に実施した。今後、追跡調査を実施するための計画を立てていく。関係機関との意見交換や、参加候補である事業所への協力依頼を行っていく。2021年度に続き、研究成果を発表し社会還元を積極的に行っていく。 【研究2】や【研究3】に関しては、対象とする事業場との打ち合わせを進めている段階である。さらに、介入に用いるオンラインプログラムを開発している企業とも協議を進めている。感染症対策に配慮した被験者の募集、研究内容、介入方法などを立案し、着実に実行していく。
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次年度使用額が生じた理由 |
研究計画がやや遅延した他、参加予定だった学会が現地開催からオンライン開催に切り替わったことなどで、次年度使用額が生じた。研究の遂行や論文の発表のために使用していく。
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備考 |
2件の市民公開講座、および予防医学メンタルヘルス相談士研修(日本予防医学会主催)で感謝の効能をテーマに講師を務めた。
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