研究課題/領域番号 |
20K19634
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
田中 友規 東京大学, 大学院工学系研究科(工学部), 特任研究員 (30750343)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | フレイル / サルコペニア / フレイルチェック / アクションリサーチ / 老年学 / 地域在住高齢者 |
研究実績の概要 |
高齢者のフレイル予防に向けて、早期発見プログラム『高齢住民サポーター主体のフレイルチェック(FC)』が全国数多の自治体で展開されている。しかし、チェック後の介入は自治体で異なり、必ずしもエビデンスに基づいた介入を施せていない。この課題解決に向けて、本研究では以下の3つの視点を軸に進めていく。①FC導入モデル自治体にて、フレイル予防への有効性が期待できる栄養・運動・社会参加等の複合プログラムを、自治体内の既存事業を活かせる形で新規開発する。②開発プログラムの参加者に対する多面的な機能向上への効果検証を行う。③プログラムの開発過程と新知見を実践ガイドとしてまとめ、全国への自治体導入に受けての汎用性のある情報発信を行う。以上により、FC導入自治体が、エビデンスに基づく複合プログラムを応用実践し易くすることで、健康寿命延伸の汎用例となり、最終的に社会保障費への負担軽減にも寄与することを目指すことが本研究の目的である。 しかしながら、本年度は新型コロナウイルス感染症の影響で地域在住高齢者を対象としたフレイル予防事業の多くが中止せざるを得ない状況となった。したがって、本年度は新たな栄養・運動・社会参加等の複合プログラムの開発には至らず、必要とされる要因もコロナ流行前とで大きく異なる可能性も考えられる。よって、本年度は先行研究のレビューに加えて、次の2点に焦点を絞り、調査および分析を行った。具体的には、① 新型コロナウイルス感染症の蔓延に伴う緊急事態宣言が地域在住高齢者の栄養・運動・社会参加を中心とした健康行動との関連を検討、② FC導入自治体の中で、市独自の栄養・運動・社会参加のプログラムを実施している場合もあり、既存のデータベースを用いて、既存プログラムの多面的なフレイル予防に対する影響を検討した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
研究1年目であった本年度では、自治体・フレイルサポーター共同による住民主体複合介入プログラムの開発に向けて、系統的レビューによりエビデンスを踏まえた複合介入プログラムのひな型を作成予定であった。実際に、既報研究やガイドラインの推奨内容も参考としたレビューは実施したが、本年度は新型コロナウイルス感染症の影響が極めて大きく、地域在住高齢者を対象としたフレイル予防事業が中断されたことで、当初計画していた研究活動が達成できない状況であった。しかしながら、コロナ禍で高齢者の健康行動の実施体系も大きく変化してくることが予想される。したがって、本年度は、新型コロナウイルス感染症の蔓延に伴う緊急事態宣言が地域在住高齢者の栄養・運動・社会参加を中心とした健康行動との関連を検討するため、東京都西東京市が第1次緊急事態宣言中に収集した地域在住高齢者を対象に配布した質問票を解析した。結果として、地域在住高齢者の14%近くが閉じこもり傾向にあり、健康行動(栄養・運動・社会参加)にも大きな影響を及ぼしている可能性が明らかとなった。したがって、コロナ禍でこそ、本研究事業が目指している健康行動を促すための具体的な方法論の構築が必要である。さらに、コロナ禍が続くことで、地域在住高齢者を対象とした介入研究が困難となった場合を考え、市独自の栄養・運動・社会参加のプログラムを実施しているFC導入自治体のデータベースを用いた介入前後比較ができるよう、自治体毎にデータ収集を行った。現時点では、サンプルサイズが不十分であり来年度以降さらに収集していく。
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今後の研究の推進方策 |
本研究では、2020~23年度の4年間を費やし、フレイルチェックの評価機能(赤信号数)と人的資源(フレイルサポーター)を活用して、全国のフレイルチェック導入自治体がモデル自治体と同程度の複合プログラムを独自に開発でき、実践につなげるための「ガイド」を作成することを目指している。しかしながら、当初計画と社会情勢が大きく異なり、コロナ禍でも応用可能なガイドを目指す必要性が想定された。したがって、研究1年目である本年度はコロナ禍における地域在住高齢者の健康行動の状況を把握した。結果として、コロナ禍の影響は大きいことが懸念される。また、今後コロナ禍の状況しだいでは高齢者を対象とした介入研究が困難となる可能性も懸念される。したがって、研究2-3年目を目途に予定していた「住民主体-複合介入プログラムの多面的な機能維持・向上への効果検証」に関しては、自体体が独自に実施していた複合介入プログラムの効果検証を、複数自体体分の既存データを解析することで検証する。また、社会情勢的に可能であれば、フレイルチェックにて兆候が見られた参加者を対象に、開発したプログラムの無作為化対照試験を実施、多面的な機能維持・向上に対する効果検証を行う。また、算出された効果量を基に介護費用削減効果を推定概算する。これらの成果と、コロナ禍における健康行動のポイントも併せた形で、研究4年目にはフレイルチェック全自治体向け『複合介入プログラム開発・実践ガイド』を作成する。本ガイドをフレイルチェック導入全自治体に還元することで、コロナ禍においても全国規模の自治体がエビデンスに基づく介入プログラムを応用実践し易くなり、各自治体が自身のフレイルチェックの結果(赤信号数等)を活用して推定介入効果も算出可能となるため、行政的な予算確保や効果検証にも貢献することが期待できる。
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次年度使用額が生じた理由 |
本年度は新型コロナウイルス感染症の影響で、自治体で開催されるフレイル予防活動が中止となった。その関係で、当初計上していた旅費や謝金に関わる研究活動が行えず、本年度は主に物品購入やデータ整理等の委託が主であった。次年度使用額である5987円(直接経費の約1%程度)が生じてしまったが、これは必要な物品等がなく、コロナ禍が明けた後の、実際の自治体への交通費や高齢者と共同で調査した際の謝金等の一助に活用予定である。 次年度は「住民主体-複合介入プログラムの多面的な機能維持・向上への効果検証」を進める予定である。具体的には、社会情勢的に可能であれば、フレイルチェックにて兆候が見られた参加者を対象に、開発したプログラムの無作為化対照試験を実施、多面的な機能維持・向上に対する効果検証を行う。コロナ禍で実施困難の場合には、自体体が独自に実施していた複合介入プログラムの効果検証を、複数自体体分の既存データを解析することで検証する。したがって、本年度に実施不可であった現場に出向くための旅費や、研究協力者への謝金、データ収集整理等に使用する予定である。
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