研究課題/領域番号 |
20K19635
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研究機関 | 山梨大学 |
研究代表者 |
今井 千裕 山梨大学, 大学院総合研究部, 准教授 (50778842)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | 食事の質 / 妊娠期栄養 / DNAメチル化 / 妊娠期環境要因 / 母子コホート / DOHaD |
研究実績の概要 |
妊娠期の環境は、胎児発育のみならず母児の長期的な健康にも影響を及ぼす。本研究では、妊娠期から児が2歳になるまでの妊婦の様々な栄養・生活環境要因ならびに児の発育状況を統合的に調べ、この期間の環境が母児エピゲノムや妊娠経過および健康状態に及ぼす影響について検討した。 妊婦の健康指標とエピゲノムの関連では、日本人女性では血清フェリチン濃度が低く慢性的な鉄欠乏状態にある場合が多いことから、特に妊娠中では骨髄造血発生および分化段階に影響するのではないかとの仮説のもと、造血分化を制御するヘム依存性の転写抑制因子Bach1の結合領域を有するIntegrin beta3(ITGB3)を候補遺伝子としてDNAメチル化と血清フェリチン値との関連を調べた。結果として血清フェリチン値が低値の妊婦ではITGB3のヘム・Bach1感受性領域のメチル化はわずかに上昇する可能性が示されたが統計的有意ではなく、今後は候補領域を網羅的に解析することが必要と考えられた。 また現在の日本では、妊婦の低体重と妊娠中の体重増加量の不足が問題となっている。この背景には妊婦の栄養摂取量不足があると考えられているが、一方で体重増加のみを目的とした食事摂取量増加が母児の健康にとって最適であるとは限らない。そこで妊娠中期の3日間の食事記録調査に基づいて妊婦の食事を質の面から評価することを試みた。以前に報告したNutrient-rich food index(NRF)9.3に加え、食事バランスガイドスコアを使用して食事の質を調べ、妊娠前BMIによって区分して体重増加量などとの関連を調べたところ、推奨されるエネルギーを摂取していたほとんどの妊婦では食事の質が低く、体重増加量が推奨範囲内でなかった等の結果が見られた。日本人妊婦においては、エネルギー摂取量のみでなく食事の質を評価するような管理が重要であることが示された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
本研究では、妊婦の脂質代謝関連遺伝子やBach結合領域を含むITGB3遺伝子のDNAメチル化、および児のSKI遺伝子のDNAメチル化を臍帯血で測定するなどのエピゲノム状態と環境要因との関連解析を進めてきた。それとともに、栄養素および食品群別摂取量に基づき妊婦の食事の質の評価を行ってきた。食事の質の評価については、NRF9.3やE-DII、食事バランスガイドスコアの他にも、複数の評価指標について検討していたため、母児の健康指標との関連を調べるのに時間を要した。また妊婦の体重増加量との関連については検討を進めてきたが、児の発育データとの関連に関する検討はまだ十分ではない。これらのことからやや遅れていると判断した。
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今後の研究の推進方策 |
本研究では出生後の子に対しても2歳児健診までの結果を収集しておりデータベース化が完了している。次年度は最終年度となるため、妊婦の食事の質の評価と出生児の体格や健康状態と関連を中心に解析を続け成果をまとめたい。またNRF9.3などの指標以外にも、日本人妊婦の食事の質を評価するのに適する指標があるかどうかについて検討を進めていきたい。
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次年度使用額が生じた理由 |
DNAメチル化解析はこれまでに購入したSpectroCHIPや試薬を用いて実施することができ、さらに今年度は食事の質の調査が中心に進行したことから実験的研究のウエイトが比較的小さかったことが、次年度使用額が生じた理由である。今後はフリーザーや統計解析ソフト等の購入を予定している。
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