我が国では、糖尿病の可能性を否定できない者を含めると成人の5人に1人が糖尿病とされており、大きな社会問題となっている。欧米人においては、末梢組織におけるインスリン効果の低下(インスリン抵抗性)が主な発症原因とされる一方で、日本人では膵臓からのインスリン分泌能力の悪化が原因で糖尿病を発症する場合が多い。したがって、低下した膵臓の機能を改善する手法の開発は我が国における重要な課題である。これまでの研究において、運動は末梢組織における血糖処理能力を改善させることが明らかとなっているものの、インスリン分泌能力を改善できるのかについては明らかとなっていない。そこで令和4年度の研究では、2型糖尿病モデルマウスを対象に、長時間の一過性の水泳運動が全身のインスリン感受性および膵臓のインスリン分泌能力に及ぼす影響を検討した。 一過性の3時間水泳運動直後にインスリン負荷試験を行った結果、血中グルコース濃度は安静群のマウスと比較して運動群で有意に低い値を示した。その際、血液中にどれだけインスリンが残っていたかを示す曲線下面積は、安静群と比較して運動群で有意に高い値を示した。以上のことから、一過性の長時間水泳運動は糖尿病マウスにおける全身のインスリン感受性を亢進させることに加え、血中のインスリン量を保つことができる可能性が示唆された。また、運動直後に単離した膵島をグルコースを含んだ溶液でインキュベートした結果、インキュベート後の溶液中のインスリン含量は安静群と比較して運動群で有意に高い値を示した。このことから、一過性の長時間水泳運動は糖尿病マウスのインスリン分泌能力も向上させる可能性が示唆された。
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