研究実績の概要 |
初年度の研究によって、成熟筋線維に発現するNotch2が筋萎縮を制御していることが明らかとなったため、本年度はその上流メカニズムに着目した。 まず、Notch2を活性化させるリガンドを明らかにするために、筋組織内に発現する4種類のNotchリガンド(Dll1, Dll4, Jag1, Jag2)の組換えタンパク質を固相化した培養プレートで単一筋線維を培養し、Dll4がNotch2を介して筋萎縮を誘導することを明らかにした。 次に、筋組織内におけるDll4のソースについて、Single-nucleus RNA-Seqや免疫組織化学解析により、筋萎縮を誘導するDll4は血管内皮細胞に由来することを見出した。Notchシグナルのシグナル伝達には細胞間接触が重要であると考えられているものの、電子顕微鏡下で血管内皮細胞と筋線維の物理的接触が確認できなかったことから、免疫電子顕微鏡解析によりDll4の局在を調べたところ、Dll4は内皮細胞と筋線維の間質に存在しており、この観察像から筋萎縮が誘導される状況下において内皮細胞はDll4を放出することで、細胞間接触を介さずに筋線維のNotch2を遠隔から活性化させるのではないかと仮説を立てた。この仮説を検証するために、Transwellシステムを用いてマウス初代培養内皮細胞と単離筋線維の共培養を行い、内皮細胞から放出された可溶型のDll4が筋線維萎縮を誘導することを明らかにした。 最後に、Dll4阻害による筋萎縮抑制効果についてマウス個体レベルで検討したところ、血管内皮細胞特異的Dll4ヘテロ欠損マウスやDll4中和抗体を投与したマウスは、不活動および糖尿病による筋萎縮に対して抵抗性を獲得した。以上より、本研究は不活動や糖尿病による筋萎縮の上流メカニズムとして、血管内皮細胞Dll4-筋線維Notch2軸が機能していることが明らかにした。
|