筋性動脈および弾性動脈の硬化度は、将来の認知機能低下に対する独立した予測因子であるといえる。加齢により、動脈硬化度は増大し、高血圧や心血管疾患発症、脳血管疾患のリスクを増大させる。その改善法として、継続的な有酸素運動や複合的な運動プログラムの施行が報告されている。しかしながら、有酸素運動の施行には持久力や脚筋力が必要であり、レジスタンストレーニングの施行には関節への負担や負荷が問題である。自らの研究において、スタティック・ストレッチングの継続施行により、動脈硬化度に影響がみられたことから、バスキュラー・ストレッチングと名付けた。高齢者の日常生活において、取り組みやすいエビデンスのある運動処方の確立が必要であると考え、本研究は運動習慣のない前期高齢者を対象とし、バスキュラー・ストレッチングのみに特化した長期介入が認知機能および動脈硬化度への有用性を確立することを目的とした。 全対象者を無作為に介入群とコントロール併用群に群分けし、介入期間は6ヶ月間とした。介入群は毎日15分間のバスキュラー・ストレッチングを1日1回以上、ややきついからきついと感じる強さで施行した。コントロール併用群は3ヶ月間を未介入とし、その後3ヶ月間は介入群同様にバスキュラー・ストレッチングを施行した。両群共に3ヶ月後、6ヶ月後、脱介入6ヶ月後に介入前と同様の評価項目を測定した。 その結果、介入3ヶ月後は、認知機能、柔軟性と血管内皮機能に有意な改善を認め、介入6ヶ月後では、認知機能、柔軟性の改善、血管内皮機能及び動脈硬化度においても有意な改善を認めた。しかしながら、介入後6ヶ月間の脱介入後では、認知機能、柔軟性、血管内皮機能及び動脈硬化度は介入前の状態に戻り、可逆性を認めた。6ヶ月間のバスキュラー・ストレッチング施行は柔軟性、認知機能を改善し、抗動脈硬化の運動種目の一つとして貢献する可能性が示唆された。
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