研究課題/領域番号 |
20K19667
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研究機関 | 株式会社辻料理教育研究所(辻静雄料理教育研究所 研究部門) |
研究代表者 |
五領田 小百合 株式会社辻料理教育研究所(辻静雄料理教育研究所 研究部門), 研究部門, 客員研究員 (30829784)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | ナッジ / 行動変容 / 健康無関心層 / 介入研究 / 食選択 / おいしさ / 融合研究 |
研究実績の概要 |
健康寿命延伸の促進を鑑みた健康的な食選択を継続するための仕組みの構築は、公衆衛生学分野における喫緊の課題である。これまでに栄養教育等によるヘルスリテラシー向上を目的とした施策は行われてきたが、健康無関心層は依然として取り残されたままである。近年、ちょっとしたきっかけを与えることで対象者に望ましい行動を自発的に促す「ナッジ」が保健医療分野においても活用されはじめている。 本研究では、意思決定時の思考特性である、直感的で速いシステムと論理的で遅いシステムを考慮し、実店舗でナッジを活用することで、健康無関心層を含む一般市民を対象に健康的な食選択を無理なく継続させる仕組みを検討することを目的としている。 東京都内の製菓・製パン店舗において、栄養に特徴のある商品を対象に、商品の魅力を引き立てる広告の掲示(直感的で速いシステム)と、商品の会計後に一般 のお客様を対象に広告に対する印象と属性に関するアンケート(論理的で遅いシステム)を1か月間実施した。差の差分析に基づき、トレンドの影響を除外するために、介入期間の前3ヵ月間の売上の傾きが同じ商品と広告掲示商品を比較して、介入の効果を検討したところ、対象商品の売上が68%増加していた。 また、介入ありと介入なしの対象商品の売上について、前年同月比を算出することで、介入の効果の継続期間について検討したところ、介入の効果は、介入から外的要因(消費税増税)が加わるまでの8か月間、継続していることを確認した。(顧客数8,912名) さらに顧客の背景(年齢、性別、収入、世帯状況、配偶者の有無、学歴、既往歴)ごとの購買特性についても分析中である。(総顧客数:41,000名)
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
これまでの実績をふまえ、東京都と大阪府において、多店舗で商品の魅力を引き立てる広告(直感的で速いシステム)の掲示と商品購入後にも対象商品を振り返り意識できるような仕掛け(論理的で遅いシステム)を取り入れることを介入とした研究を実施予定であったが、研究対象が実店舗であることから、COVID-19による混乱の影響が大きく研究実施を延期せざるを得なかった。 しかしながら、研究が延期になったことによって、パイロット研究での介入の効果の持続性について十分に検討できたことから、おいしさをテーマとした広告の 掲示と商品購入後にも栄養に特徴のある対象商品を振り返り意識できるような仕掛けを取り入れる期間(介入群)と広告も振り返り意識できるような仕掛けも取り入れない期間(対照群)を店舗ごとに入れ替えるクロスオーバー試験で実施可能であると判断できたため、予定通り研究を実施し、介入の効果を比較することした。 倫理審査委員会より承認を経た上で、20歳以上の顧客を対象としたポイントカード(但し、氏名や住所等の個人情報は収集しない)と顧客の背景を取得するためのアンケートの導入も順調に進んでおり、来店頻度や購買状況も適切に管理できている。また、おいしさをテーマとした広告と商品購入後にも対象商品を振り返り意識できるような仕掛けの作成も完了し、現在介入実施中である。
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今後の研究の推進方策 |
本研究は、健康無関心層を含む一般市民を対象に、健康的な食選択を無理なく継続させる仕組みを検討することを目的としている。 東京都と大阪府の店舗において、おいしさをテーマとした広告の掲示と商品購入後にも対象商品を振り返り意識できるような仕掛けを取り入れる期間(介入群)と 広告も振り返り意識できるような仕掛けも取り入れない期間(対照群)を店舗ごとに入れ替える、クロスオーバー試験で介入の効果を検討中である。介入群と対照群の店舗を入れ替える時期は、介入の影響がなくなった時点を想定している。 これまでに店舗において、ポイントカードとアンケートを導入することによって、対象商品の購買状況と顧客の背景を取得している。対象商品の購買状況と顧客の背景のデータを活用し、介入群と対照群の比較から、一連の介入が有効であった対象者の属性を明らかにし、社会的要因の乏しい方々や健康無関心層への介入の効果について検討する。また、地域差による顧客背景や購買特性についても分析し、健康的な食選択を無理なく継続させる仕組みの構築に寄与したい。 研究成果は、The 22nd International Congress of Nutrition (ICN2022)で発表予定である。また、論文作成中である。
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次年度使用額が生じた理由 |
研究対象が実店舗であることからCOVID-19による混乱の影響が大きく研究実施を延期せざるを得なかったため、1年間研究期間を延長することとなった。次年度使用額は、解析ソフトSPSSの更新代金ならびに学会発表と論文作成に伴う経費として使用予定である。
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