研究実績の概要 |
本研究では、意思決定時の思考特性である、直感的で速いシステムと論理的で遅いシステムを考慮し、実店舗でナッジを活用することで、健康無関心層を含む一般市民を対象に健康的な食選択を無理なく継続させる仕組みを検討することを目的とした。最終年度では、東京都と大阪府の店舗にて介入を実施できた。 東京都の店舗において、栄養に特徴のある商品を対象に、一般店で簡単に導入できる汎用性の高い方法として、直感的で速いシステム(POP広告の掲示)と論理的で遅いシステム(対象商品の印象を尋ねるアンケート)を1ヶ月間導入し、店舗における消費者の食選択に及ぼす影響を検討した。また差の差分析法を用いて介入の効果と継続期間を検討した。継続期間を確認後、半年間無介入期間をおいて、広告の掲示と商品カードの配布を実施し続けた。 2019年1月から2023年2月までに来店した顧客(総顧客数:48,000名)を対象とした解析では、対象商品の介入を実施した直後の1ヶ月間の売上は、介入なしの前年度の同時期に比べ、天候がすぐれない日が多く、欠品に対する補完が十分でなかったにもかかわらず、68%向上した。介入の効果は消費税増税の影響を受けるまで8ヶ月間継続していた。 その後、コロナ禍の混乱等により一時的に売上は減少したが、介入から4年が経過した現在では対象商品が売れ残ることはなくなった。直感的で速いシステムを要する広告掲示のみを実施した場合では、大幅な売上向上は認められなかったことから、論理的な遅い思考を要する介入を実施したことが売上向上につながった可能性がある。実店舗における健康的な食選択を促すナッジの効果は、顧客の背景や社会経済的要因の影響を受ける可能性があることを認識したうえで、リピーターが定着するまで継続することで発揮される可能性があることが示唆された。今後は顧客背景や購買特性について地域差分析を行う予定である。
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