研究課題/領域番号 |
20K19676
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研究機関 | 徳島大学 |
研究代表者 |
清水 真祐子 徳島大学, 大学院医歯薬学研究部(医学域), 助教 (20759021)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 非アルコール性脂肪肝炎 / 線維化 / マクロファージ / 病的脂質 / コレステロール / 肝線維化モデル動物 / A/Jマウス / TSNOマウス |
研究実績の概要 |
本研究では非アルコール性脂肪肝炎(NASH)病態の線維化発症に関与するマクロファージの活性化機構を、栄養因子の観点から明らかにすることを目的とした。2020年度にはヒトのNASHでみられる繊細な細胞周囲性線維の進展があり、その後bridging fibrosisへと進行するNASH線維化モデル動物を作成した。本モデルは高脂肪・コレステロール・コール酸を含む飼料の投与のみで誘導しており、特にTsumura-Suzuki non-obese(TSNO)マウスに投与すると短期間で高度な線維化を発症する。遺伝子組換え動物や肝毒性物質を用いない点でヒトへの外挿性が高いと考えられる。また、同飼料を種々のマウス系統に投与すると、系統ごとに肝臓における病理組織学的所見あるいは生化学的パラメータが少しずつ異なるNASHを発症することを明らかにした。特にA/Jマウスでは肝組織学的にマクロファージの集簇が顕著で、かつ、集簇したマクロファージの辺縁部に活性化星細胞(線維芽細胞)を認めたことから、マクロファージと線維芽細胞のinteractionを解析しやすいモデルと位置付けた。線維化の発症過程には肝星細胞、マクロファージなど様々な細胞の関与が考えられてきたが、細胞同士のinteractionを可視化できるモデル動物は新規性が高く、NASH線維化の発症機序の解明に役立つと考えられる。 さらに、線維化を発症したA/Jマウスの肝臓では特定のリン脂質が先述の集簇したマクロファージに蓄積していることを質量分析イメージング(MALDI-IMS)によって明らかにした。因果関係は明らかではないが、特定のリン脂質と線維化の関連の糸口を掴んだ本結果は線維化の“始発点”を可視化できるモデル動物ならではの発見と言える。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
高脂肪・コレステロール・コール酸を含む飼料を投与したTSNOマウスを用いたbridging fibrosisを発症するNASHモデル動物を作成した。また、同飼料をA/J系統に投与することで線維化に関与するマクロファージを組織学的に可視化できるモデル動物を作成した。様々な線維化を作り分けられる技術を確立したことにより、NASH線維化の発症機序の解明に役立てられると考えている。 また、新たに開発したA/J線維化モデル動物が線維化の“始発点”を可視化できるモデルであることを活かし、質量分析イメージング(MALDI-IMS)によって脂質の蓄積を評価したところ、線維化の始発点に特定のリン脂質の蓄積がみられることがわかり、モデルの有用性を確かめられた。
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今後の研究の推進方策 |
肝線維化の“始発点”を集簇したマクロファージによって可視化できるA/Jモデルを活かして、マクロファージの表現型や貪食物質、活性化因子を明らかにする。現在、ホスファチジルコリンやホスファチジルエタノールアミンが集簇したマクロファージに蓄積していることを確認しており、これが線維化を促進する病的脂質なのか、線維化の結果として蓄積した脂質なのかをモデル動物あるいは培養細胞などを用いて検討していく。さらに、マクロファージ集簇と脂質を1つの指標として、NASH線維化を改善する天然化合物のスクリーニングを始める。天然化合物の例として、生薬のオウバクとその成分を考えている。
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次年度使用額が生じた理由 |
3月に納品され、支払いが4月となったため。
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