研究課題
本研究では非アルコール性脂肪肝炎(NASH)病態の線維化発症に関与するマクロファージの役割を明らかにすることを目的とした。2020年度にはA/JマウスにiHFC dietを投与することで肝臓においてNASH様病変と線維化を発症するモデル動物を確立した。iHFC-A/Jモデルは肝組織学的にマクロファージ集簇像とその辺縁部に活性化星細胞(筋線維芽細胞)およびコラーゲン線維の蓄積がみられ、線維化の“始発点”を可視化でき、マクロファージの役割の解明に適したモデル動物であると考えられた。2021年度にはiHFC-A/Jモデルでみられた肝臓の集簇マクロファージが、泡沫細胞化に関与するスカベンジャーレセプターCD204を発現することを突き止め、コレステロールをはじめとした脂質の貪食が線維化病態特異的マクロファージの発生に関連する可能性を明らかにした。また、マクロファージ集簇をNASH肝線維化病態の1つの指標として、NASH線維化を改善する天然化合物のスクリーニングを始めた。天然化合物の例として、マクロファージに作用することが報告されている生薬成分のオウバクとその成分を用いたところ ベルベリンの投与は肝臓におけるマクロファージマーカーMac-2の発現を低下させ、肝線維化を軽減した。これはすなわち、線維化の始発点として捉えた集簇マクロファージがNASHの線維化をdriveしていること、病態特異的なマクロファージがこれまで困難であったNASHにおける線維化の予防や治療のターゲットとなることを意味するものと考えられる。
2: おおむね順調に進展している
天然化合物ベルベリンが病態特異的マクロファージを介してNASHにおける線維化の発症を抑制し、本研究の目的であるNASH肝におけるマクロファージが線維化治療のターゲットとなることを示した。また、2020年度に作成した線維化の“始発点”を可視化できるモデル動物“iHFC-A/Jマウス”がNASH線維化モデルとして有用であることを示せた。
生薬オウバクの成分であるベルベリンによるマクロファージへの作用機序を解明し、NASH線維化予防・治療法の確立を目指す。iHFC-A/Jマウスのマクロファージ集簇像は様々なサイトカインの分泌が確認できているため、これらを産生する経路や、マクロファージ自体の生存に関与するシグナルなどを中心に検討を深める。また、iHFC-A/J線維化モデルの病態をさらに解析し、病態モデル動物の理解を深めることでNASH線維化発症機序の解明に繋げる。
(理由)3月に納品となり、支払いが完了していないため。(計画)4月に支払いが完了する予定である。
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