本研究では、マウスを用いて口蓋形成初期におけるビオチンの機能を明らかにすることを目的とした。令和2年度は、ビオチン添加期間の影響を調べ、ビオチン欠乏マウスに対して妊娠10日~12日にビオチンを添加すると口蓋裂発症を予防できることを見出した。令和3年度は、発生時期によるビオチン必要量の違いを調べ、妊娠13日と妊娠15日の胎仔口蓋におけるビオチンの存在形態を比較し、妊娠13日の胎仔口蓋ではほとんどのビオチンがタンパク質結合型で存在していることを見出した。これらの結果から、口蓋形成初期にビオチンが重要であると推測されたが、ビオチンの添加量が必要量よりも過剰であったため、添加期間の影響が見られなかった可能性が考えられた。そこで、令和4年度は、本研究で用いたビオチン添加量が欠乏状態に及ぼす影響を調べた。 妊娠15日における母体および胎仔の組織中ビオチン量を調べた。母体血清中のビオチン量はコントロール群と比較して欠乏群およびすべての添加群で有意に低下した。母体肝臓中のビオチン量は差が見られなかったが、胎仔肝臓中のビオチン量は欠乏群およびすべての添加群で有意に低下し、欠乏群はdg10-14添加群よりも有意に低かった。また、血清3-ヒドロキシイソ吉草酸(3-HIA)濃度は欠乏群で有意に増加した。ビオチン欠乏時に3-HIAが増加することから、ビオチン欠乏群はビオチン欠乏状態であったと考えられたが、添加群は、母体血清および胎仔肝臓中のビオチン量は低下していたものの、3-HIAへの影響が見られなかったため、潜在的な欠乏状態であったと考えられた。潜在的欠乏状態ではあるが、口蓋形成は正常に行われていたこと、添加群の口蓋中ビオチン量は欠乏群よりも有意に高かったことから、口蓋形成期間においては体内のビオチンが口蓋に優先的に供給される可能性が推測された。
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