高比重リポ蛋白質(High Density Lipoprotein: HDL)は、血漿中ではアポタンパク質A1(Apolipoprotein A1: ApoA1)を多く含むApoA1-HDLと、アポタンパク質E(Apolipoprotein E: ApoE)を多く含むApoE-HDLとして存在している。ApoE-HDLは、コレステロール逆転送系など、血漿リポ蛋白の代謝に関与しており、ApoA1-HDLに比べてより善玉性が高いことが報告されている。 脳内ではアストロサイトがアポ蛋白を新生し、ApoA1-HDLやApoE-HDLを生成して、脳内脂質代謝の中心的役割を担っている。その中でもApoEは、細胞間の脂質運搬に関与する重要な役割を持つ糖蛋白である。HDL中の脂質が過酸化されるとApoE蛋白分子上のアミノ酸が酸化修飾されて不溶化する。これが細胞間質に蓄積して周囲の細胞を傷害し、アルツハイマー病や動脈硬化症の発症の一因となる。アストロサイトは、脳血液関門の形成、神経細胞への栄養供給、細胞外液のイオン調節に関与し、神経細胞の生存と働きを助けている。 本研究では、アストロサイトの基本的性状を明らかにし、ApoA1-HDL、ApoE-HDLおよび酸化HDLがアストロサイトの増殖率に及ぼす影響を確認した。各HDL分画を超遠心法とアフィニティクロマトグラフィを用いてTotal HDL、ApoA1-HDL、ApoE-HDLを分取し、硫酸銅酸化後に、HDL酸化度の確認と細胞増殖試験により検討を行った。未酸化のApoE-HDL はアストロサイトの増殖率を増加させ、酸化修飾されたTotal HDLとApoA1-HDLでも有意な細胞増殖率の増加が認められた。各HDL分画の生理的作用と、酸化度の違いによる複合的な要因がアストロサイトの増殖率に影響することが示唆された。
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