研究実績の概要 |
カプロン酸エチル (EC) と酢酸イソアミル (IA) は、清酒の主要な吟醸香成分である。カプロン酸(CA)とイソアミルアルコール(IAA)はそれぞれECとIAの前駆体であり、酒造りにおいて重要な成分である。 EC、CA、IA またはIAA によって誘導される、不飽和リン脂質である1,2-ジオレオイル-sn-グリセロ-3-ホスホコリン(DOPC)から作製された細胞サイズのリポソームの膜ダイナミクスを明らかにすることが出来た。また、吟醸香や酒に含まれる香り・匂い成分を含む細胞サイズリポソームのドメイン構造について明らかにすることが出来た。具体的にはDOPC /ジパルミトイル-sn-グリセロ-3-ホスホコリン/コレステロール(Chol)またはエルゴステロール(Erg)三成分から作製された膜における固体秩序相/液体無秩序(Ld)相および液体秩序(Lo)相/ Ld相分離は、ECの添加後に減少し、IVAの添加後にLo / Ld相分離が減少することを発見した。 Chol含有細胞サイズリポソームにおいては、荷電脂質含有条件で相分離構造する割合が減ったが、ミネラル分による電荷の遮蔽によって荷電脂質を含まない時に近い相分離構造を持つ割合に近く変化した。一方、Erg含有細胞サイズリポソームが荷電脂質を含む時、および電荷の遮蔽に対して、Chol 含有細胞サイズリポソームに対して穏やかに応答することを見出した。 結果は、ECおよびIVAの存在や含有量を評価するための分析化学的な応用面だけでなく、それら成分の物理化学的性質や生理的な機能を推測するための生物物理学や生理学的側面について、信号伝達に関与する受容体やチャネルの活性が膜の相状態に応じて変化する報告と関連付けて議論した。この研究の成果は、吟醸香やミネラル成分の機能の理解と含有濃度を迅速で高コストパフォーマンスに行う技術へつながる。
|