研究課題/領域番号 |
20K19717
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研究機関 | 東海大学 |
研究代表者 |
深井 航太 東海大学, 医学部, 講師 (00813966)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 普及と実装科学 / 産業保健 / 健康経営 / 組織準備性 / ヘルスプロモーション |
研究実績の概要 |
普及と実装科学(Dissemination & Implementation Science:D&I)は、エビデンスに基づく介入を「どのように」すれば実装できるのか、という問いに対する知識体系を構築する学問領域である。D&Iの特徴として、実装研究のための統合フレームワーク(Consolidated Framework for Implementation Research:CFIR)や組織準備性(organizational readiness for change)など、様々なフレームワークやモデルとよばれる理論的な基盤が構築されている。D&Iでは、こうしたフレームワークを共通言語として、科学的エビデンスをEBI をどのようにすれば実装できるのか、日常のプラクティスにできるのか、という疑問に取り組む研究手法である。 産業保健領域におけるエビデンスとして、がん検診、肝炎ウイルス対策、喫煙対策など、様々なガイドラインが制定されている中、あらゆる企業がそれらを実行できているとは言い難い。本研究では、まず、D&Iの概念や用語を整理する目的として、文献的調査を行った。次に、産業保健領域での健康増進対策実施の促進・阻害要因と、実装戦略やその要素を持つ介入研究について、文献的調査により事例収集を行った。さらに、CFIRに基づいたキー・インフォーマント・インタビュー調査を、5つの健康保険組合に対して実施した。これらより得られた情報について、質的手法を用いて分析を行ったところ、ステークホルダーからの情報伝達や経済的なインセンティブといった外的セッティングだけでなく、経営層の方針や従業員の理解といった内的セッティングや個人特性が、企業においては重要な阻害・促進要因であることが考えられた。特に内的セッティングはWeiner理論による組織準備性との関連が強く、組織準備性の尺度開発が必要である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
文献的調査およびインタビュー調査に関しては、研究協力者の協力もあり概ね当初の計画通りに実施することができた。それらの質的分析に時間を要したことにより、尺度開発に関するインタビュー調査とアンケート調査が遅れている。翌年度、ウェブ会議システムやメーリングリスト等を用いて、より効率的にデータ収集、分析を行っていく予定である。
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今後の研究の推進方策 |
翌年度は、整理した尺度の候補となる質問項目について、インタビュー調査を行う。組織変化の実装準備尺度(Organizational Readiness for Implementing Change Scale:ORIC)および職場準備性尺度(Workplace Readiness Questionnaire)をベースとして、本邦の文化、言語に即した組織準備性尺度の開発を行う。調査対象者として、日本産業衛生学会産業医部会・看護部会に所属する専門職および勤務先の人事・労務担当者を対象に、大規模(300人以上)、中規模(50-299人)、小規模(50人未満)の事業所からをランダムサンプリングし、インタビュー調査を実施する。インタビュー調査は逐語録から質的手法を用いて分析を行う。その結果をもとに、専門家(研究協力者)間で議論をし、質問の絞り込みにより、尺度(パイロット版)を作成する。パイロット版尺度を、帝国バンクの企業データベースを用いて、全国1000社規模のアンケート調査を人事労務担当者向けにおこなう。尺度の信頼性について、統計的に検証し(Cronbach’s α、McDonald’s ω、Item-Rest相関係数など)質問を絞り込む。開発した組織準備性尺度を実際に用いて、企業の組織準備性のレベルを特定した上で、10社程度を対象に、介入研究を行う。介入の内容は、企業における健康増進活動への情報提供、教育研修等を想定している。効果の測定は、介入前後の組織準備性尺度に加え、D&Iで実装アウトカムと言われる各指標(受容性、忠実度、浸透度、持続可能性など)、また従来のアウトカムとして、WHOの労働生産性指標、労働者の各健康指標(喫煙率、がん検診受診率等)の比較を行い、研究の効果を検証する。
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次年度使用額が生じた理由 |
COVID-19により計画していた海外・国内学会の現地開催がなくなり、オンライン開催となったことで旅費が減少した。また、インタビュー調査においても、対面ではなくオンラインで行ったことにより、旅費が減少し残額が発生した。R4年度は、インタビュー調査の旅費および謝金、アンケート調査の郵送料にて使用する。
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