研究課題/領域番号 |
20K19719
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研究機関 | 東京薬科大学 |
研究代表者 |
坂上 弘明 東京薬科大学, 薬学部, 助教 (80734855)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | D-アミノ酸 / 皮膚バリア機能 / 表皮角化細胞 / フィラグリン |
研究実績の概要 |
アミノ酸にはL型とD型の2つの鏡像異性体が存在する。通常、生体を構成するアミノ酸はL型であるが、近年、D型アミノ酸が種々の組織で発見され、重要な生理機能を有していることが明らかになってきている。 皮膚において、アミノ酸は天然保湿因子としての役割を担っており、表皮に多量に存在している。L型アミノ酸と比べると非常に少ないものの、D型アミノ酸も皮膚に存在することが報告されており、機能解明が進められている。本研究では、表皮に微量に存在するD-アミノ酸の皮膚バリア機能に対する生理的役割について検討し、アトピー性皮膚炎治療への応用を目指している。 アトピー性皮膚炎の発症に関わるタンパク質の1つにフィラグリンが知られている。そこで、本年度は、表皮角化細胞のフィラグリン産生についての基礎検討を行った。正常ヒト表皮角化細胞(NHEK)はリゾホスファチジン酸(LPA)の添加により、フィラグリン遺伝子の発現量が著しく増加することが報告されている。しかしながら、NHEKは継代可能数が少なく、多種類の薬物をスクリーニングするには適していない。そこで、本年度は不死化細胞であるヒト表皮角化細胞株(HaCaT)を用いて、NHEKと同様の反応性が得られるかを検討した。 その結果、HaCaTにおいては、LPAによるフィラグリン産生促進作用はNHEKで報告されているほど顕著には認められなかった。そこで、HaCaTの分化に関して検討したところ、HaCaTは増殖培地中で培養を続けるだけで分化マーカーの1つであるケラチン10の遺伝子発現量が著しく増加することが明らかとなった。フィラグリンは分化細胞が産生するタンパク質であるため、増殖培地にて5日間培養し、分化誘導後のHaCaTに対してLPAを作用させてみたが、LPAによる劇的なフィラグリン産生促進作用は認められrなかった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
4: 遅れている
理由
新型コロナウイルスの流行による出勤制限の影響で、実験開始が半年以上にわたって遅れた。これに加え、PCR試薬の流通が滞ったことにより解析が進まず、研究の進捗に遅れが生じている。
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今後の研究の推進方策 |
本年度の研究から、HaCaTを用いてフィラグリン発現を評価することは難しいと考えている。これまでに報告されている論文の中でも、HaCaTを用いてフィラグリン発現を検討している論文も少ないことから、分化状態を評価するには適さない細胞であることが考えられる。 今後は、正常ヒト表皮角化細胞(NHEK)を用いて、LPAによるフィラグリン産生促進作用の評価を行うとともに、D-アラニン、D-プロリン、D-グルタミン酸、D-アスパラギン酸、D-セリン等の表皮に存在することが確認されているD-アミノ酸を中心にNHEKに対する作用を検討する。 また、アトピー性皮膚炎自然発症マウスより採取した皮膚組織を用いて、皮膚内に存在するD-アミノ酸の種類と量を比較する。
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次年度使用額が生じた理由 |
新型コロナウイルスの影響による出勤停止等があり、研究開始が大きく遅れたため、次年度使用額が生じた。 本年度発生した次年度使用額は良く年度分と合わせ、D-アミノ酸で処理した細胞のRNAシークエンスおよびヒト正常表皮角化細胞(NHEK)の購入に使用予定である。
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