筋量や筋力の低下に注目していては,サルコペニア前期・早期の病態の検出が困難なことから,先行して生じる骨格筋の質や機能の変化に注目する必要がある.代謝変換(解糖系⇔酸化系)を伴う筋線維タイプの可塑性が骨格筋の質を規定するという概念に基づいて,サルコペニアの病態を解明し有効な予防・治療方法を開発するための基盤的な研究を行った. 動的に変化する筋線維タイプ組成をリアルタイムに評価することの技術的制約を克服するために,蛍光タンパク質によって全ての筋線維タイプを生きたまま識別可能な MusColorマウスの新しい技術を用いて,MusColorマウスの骨格筋から筋衛星細胞を採取し,細胞株の安定的な樹立に成功した. 低酸素状態や電気刺激を用いて筋細胞を培養し,in vitro endurance/resistance exerciseモデルでの筋線維タイプ変換の可視化に成功した.確立した実験系で,筋線維タイプ変換を誘導しうる生体内因子や薬剤のスクリーニングを行い,複数の候補を同定した.筋線維タイプ変換を誘導した筋細胞をflux analyzer(XFp)を使いて解析し,筋線維タイプと細胞代謝の関連を解析した. スクリーニングで同定された因子の血中濃度や筋での遺伝子発現を,8・18・26ヵ月齢の各マウスで測定した.ErasmusLadderやCatWalk装置を用いて,加齢や運動の有無によるマウスの歩行特性の変化を定量化した. 筋線維タイプ変換に関する基盤的な知見を得た.スクリーニングで同定された筋線維タイプ変換に関連する因子をモデル動物に投与し,歩行特性の変化が生じうるかの評価が今後の検討課題になる.
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