本研究の最終目標は対数領域計算クラス(L)を多項式時間計算クラス(P)から分離させることである.そのために対数領域計算モデルにおける計算能力の限界を解明し,クラスPとクラスLとが異なるかどうかという問題を解決するものである.対数領域計算クラスの計算限界の解明のために分岐プログラムという計算モデルの解析を行うアプローチがあり,本研究もそのアプローチをとっての研究を行った. 関連研究としてSemantic Read-once 分岐プログラムのサイズ下界を示す論文が出版されており,その拡張を目指しての研究を行った.既存研究では三分木上の木構造関数値評価問題に対する超多項式下界が示されている状況から,本研究の結果として五分木上の木構造関数値評価問題においても同等の超多項式下界を示すことを証明した.ここで,木構造関数値評価問題とは,根付き木の葉に値が与えられ,葉でない頂点にはその子の値を引数として持つ関数が与えられる状況から,根に与えられた関数がどのような値を持つかを求める問題である.本問題は深さ優先探索を行うことで解決可能であるが,深さ優先探索は対数領域では実現が難しいと考えられ,それゆえ対数領域計算モデルでは解決不可な問題ではないかと考えられている問題である. 本研究は既存の証明手法をより一般化する結果であり,木構造関数値評価問題を根以外が偶数次数となる木の上まで制限を緩和しても超多項式下界を示すことが強く示唆できる結果となっている.本研究をさらに発展させ,Semantic Read-onceという制限を完全に撤廃することでも同様に超多項式下界を示すことができれば対数領域計算モデルの限界を示すことができるが,残念ながらこの制限を撤廃する方向での研究は進展していない.また,今年度の結果をより一般化させた結果は来年度以降に学術会議等にて発表予定である.
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