本研究の目的は,理論計算機科学において知られている動的ネットワークフローを用いて,実応用に即した避難施設配置モデルを構築することである.各本年度の成果は以下の4件である. (1)容量一定の辺および単一避難施設を持つ動的フロー格子ネットワークにおいて,避難完了時間を求める効率的なアルゴリズムを開発した.避難完了時間は,一般のネットワークにおける最速避難流問題に対する既存の強多項式時間アルゴリズムによって得られるが,劣モジュラ関数最小化をサブルーチンとして複数回呼び出しているため計算時間が高次多項式となってしまう.本研究で提案したアルゴリズムは,ネットワークの構造に着目した劣モジュラ関数最小化を陽に行わないものであり,計算時間を大幅に改善できている.本成果は,日本オペレーションズ・リサーチ学会 2022年秋季研究発表会にて発表された. (2)容量一定の辺を持つ動的フロー格子ネットワークにおける避難完了時間最小化施設配置問題に対する多項式時間アルゴリズムを開発した.同問題に対しては,これまでパス・サイクル・木など限定されたネットワーククラスを扱う研究はあったが,本研究では複数のサイクルが存在するネットワークに対して初の多項式時間アルゴリズムを提案できており,関連分野における重要な結果であると言える.本成果は情報処理学会 第190回アルゴリズム研究発表会にて発表された. (3)動的フローパスネットワークにおける歩車混合避難問題に対する多項式時間アルゴリズムを開発した.同問題について,一般のネットワークにおいてはNP困難であることが知られていたが,本研究によって多項式時間で問題が解けるネットワーククラスの存在が明らかとなった.本成果は情報処理学会 第190回アルゴリズム研究発表会にて発表された.
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