研究実績の概要 |
2020年度では, 課題である非線形半正定値最適化問題(以下, NSDP:Nonlinear Semi-Definite optimization Problemと呼ぶ)とそれに関連する諸問題を数値的に解くアルゴリズムに関して主に以下3点の研究を行った. 1. 制約想定が成立していないような悪条件下のNSDPに対する逐次2次半正定値最適化法の開発 2. 2次の最適性条件を満たす点への収束性を備えた主双対内点法の開発とその計算量解析 3. Monteiro-Tsuchiya方向族を探索方向として備えた主双対内点法の超1次収束性の解析 まず1.に関して, NSDP分野では制約想定とよばれる一種の正則性を問題に仮定して, アルゴリズムの開発が行われてきた. 本研究は, 制約条件が成り立たないような状況下でも動作し, かつ求めた解が近年発見された新しい最適性条件を満たすようなアルゴリズムを開発した. また数値実験も行い, Slater条件という制約想定が成り立っていないような線形SDPに対して開発した手法が有効に働くことを観察した. 2に関して, 既存のNSDPでは,1次の停留点(KKT点)への収束性の解析が中心的に行われてきた. 一方, NSDPの最適性理論の中には2次の条件という,KKT点より強い条件をみたす解(SOSP)の存在が示されている. 本研究では, SOSPへの収束性を保証したアルゴリズムを世界で初めて開発した. 最後に3では, NSDPに対する主双対内点法と呼ばれるアルゴルズムに対して, 新しい探索方向族の提案を行い, KKT点への収束速度の数学的解析を行った. 本結果は主双対内点法の効率性に大きく関わるニュートン方向族の枠組みの拡張と理論面の強化に大きく貢献したものである. いずれの研究も論文として執筆し, 現在最適化の国際論文誌に投稿中である.
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
計画書に記述した通り, 当課題は非線形半正定値最適化の理論的進化を目的としている. とくに大きな目的として掲げたのが, 1. 2次の停留点への収束性をもったアルゴリズムの開発 2. 制約想定など正則性条件が成立していない状況下で収束性をもったアルゴリズムの開発 3. 非平滑関数を備えた問題に対しても収束性をもつアルゴリズムの開発 である. 3に関しては未着手であるものの, 1,2に関しては基盤となるアルゴルズムとその収束理論は構築(研究実績の概要1,2を参照)できており, 論文誌にも投稿済である. 以上の状況を鑑みて順調に計画遂行中であると思われる.
|
今後の研究の推進方策 |
今後の方向性として 1. 今年度開発したアルゴルズムの実用性と理論面の強化 2. 非平滑性関数を持った問題への着手 を挙げたい. 1. に関して, 2次の停留点をもったアルゴリズムを開発し, 理論面では既存アルゴリズムを大きく上回るものの, 実践性では必ずしもそうではないことが数値シミュレーションで明らかになっている. 理論的性質を維持しつつ, 実用性の強化を行うことは大きな課題である. また, 2020年度では未着手であった提案アルゴリズムの収束速度の解析についても取り組んでいきたい. つぎに2.に関してであるが, 機械学習はハイパーパラメータ学習の文脈で微分ができない点をもつ関数をもったNSDPが現れる. そうした問題を解く重要性は高いが, 非平滑最適化自体の理論的整備がNSDP分野では不十分であるため まずはそこから着手していきたい.
|
次年度使用額が生じた理由 |
2020年度は, 国際学会の中止が相次ぎ, 使用予定であった旅費や参加費が未使用になった.2021年度でも同様の状況が予想されるものの, オンライン開催により多くの会議に参加していく予定である. またオンライン講演のための機器の準備といいった物品費, オンラインにおける海外からの講演者の招聘で助成金を有効に活用していきたい.
|