本年度は、継続して取り組んでいる局所ダイバージェンスに基づく推定手法のロバスト化に関する検討に加え、Firthの方法とよばれるバイアス補正推定法に関する研究を実施し、主に後者に関する理論的成果を得た。Firthの方法は、最尤推定量に残る漸近バイアスを軽減する方法であるが、応用領域によっては最尤推定値が存在しない状況への対処法としてしばしば利用される。生物統計分野においては2値アウトカムを扱う基本的モデルであるロジスティック回帰モデルや、生存時間解析の代表的モデルであるコックス回帰モデルにおいて、適用されることが多い。本研究では、補正推定量に対応する推定値の存在性の理論保証について考察した。補正前の推定量の推定値の存在保証を意図して利用されることもあり、補正推定値の存在性については数値実験や数理的考察がいくつかの先行研究でなされてきたものの、その理論保証は最も基本的と思われるロジスティック回帰の場合ですら不十分な状況であった。本研究では、応用上もっとも基本的かつ重要な二項ロジスティック回帰の場合を対象として、緩い条件のもとで補正推定値の存在性を保証する理論結果を得た。その証明は、同様の問題に取り組んだ先行研究に残る技術的不備を自然に補正する形式になっている。また、多項ロジスティックの場合も考察し、先行研究で期待されていたメカニズムによる保証が一般には不成立であることを、反例を発見することによって示した。
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