がん登録データ解析では,死因情報が未観測という特徴から,ネット生存率と呼ばれる仮想的ながん生存率の推定が行われる.ネット生存率の推測方法として様々な方法が提案されているが,それらは一般集団の生存率情報を使用し,がん以外の他死因死亡を調整することで構築される. 昨年度に引き続き本年度は,他死因死亡の影響を調整するために使用される一般集団生存率の不完全性に対する議論を行った.一般集団生存率は,がん以外の死亡の影響を調整するために使用されるが,実際にはがん患者やがん死亡の影響を受けている.一般集団生存率に含まれるこれらの影響を補正する方法を提案した.本成果は学術誌に投稿した.また,利用可能な共変量情報の違いにより,がん登録集団における他死因生存率と一般集団生存率が異なる場合の解析方法の提案を行った. 本年度は,さらにネット生存率に対するCox回帰モデルのEMアルゴリズムを用いた推測法(Perme et al. 2009)に対する識別性や一致性,漸近正規性などの理論的正当化,および漸近分散の導出を行った.本研究成果は統計雑誌に掲載された. がん登録データ解析で頻繁に生じるモデルの誤特定の問題に対して頑健な推測法を与えるのが本研究の課題である.昨年度は,他死因生存時間分布に対するモデリングなども考慮した下で多重頑健推測法の提案を目指していたが,本年度は,打ち切り分布,任意の死亡に対する生存時間分布,がん死亡に対する生存時間分布の三種類の生存時間に対するモデリングのみに焦点をあてた多重頑健推測法の提案を目指した.経験尤度法に基づく方法とChen (2013)による回帰に基づく方法を検討し,回帰に基づく方法でより安定した結果が得られた.提案法の一致性が示されたが,漸近正規性などの理論的正当化や詳細な数値実験による推定値の挙動の調査が今後の課題である.
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