本研究では次世代パワー半導体であるSiCパワーMOSFETを対象として、放射線による閾値電圧の減少と、長期間のゲート電圧印加による閾値電圧の増加の相関について測定し、より高精度な寿命予測をすることを目的として研究を行った。前年度には放射線による閾値電圧の劣化現象であるトータルドーズ効果を測定するために、SiC MOSFETに対して放射線の照射実験を行った。 最終年度には酸化膜中に捕獲される現象が経年劣化現象と知られているBTI(ゲート電圧の印加により、チャネルから電子が酸化膜欠陥に捕獲される現象)との関係を調査した。2種類の市販品SiC trench MOSFETに対して放射線を照射してトータルドーズ効果による閾値電圧の劣化を測定し、トータルドーズ効果により劣化したMOSFETに対して高電圧のゲート電圧を印加することでBTIの劣化によってトータルドーズ効果の劣化を打ち消せることを確認した。その結果2種類のMOSFETにおいて元の閾値電圧まで回復することが可能であること、SiC trench MOSFETによって回復に必要となるゲート電圧の値が異なることを確認した。酸化膜中に捕獲された正孔が、ゲート電圧の印加によって捕獲される電子と再結合し、消滅させることが可能であるといえる。SiC trench MOSFETにおけるトータルドーズ効果の劣化量にも2つのMOSFETで異なる結果となっていることから、2つのMOSFETにおけるゲート酸化膜の厚さに違いがあり、電界強度が異なることが原因であると推測する。
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