研究課題/領域番号 |
20K19781
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
中村 遼 東京大学, 情報基盤センター, 助教 (90804782)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | P2P DMA / Linux |
研究実績の概要 |
本研究では、汎用オペレーティングシステム(OS)におけるPeer-to-Peer Direct Memory Access (P2P DMA)を用いた高速なネットワークI/Oに関する研究を行っている。CPUの性能向上スピードの鈍化に対して、主にPCIeで接続される周辺デバイスが大きく進歩している。汎用マシンに搭載可能なNetwork Interface Card (NIC)は100Gbps以上のものが一般に入手可能であり、さらにはNICに様々な機能を搭載したSmart NICも普及し始めている。またGoogleのTensor Processing Unit(TPU)のように、特定の用途に特化したデバイスも登場している。そこで本研究では、P2P DMAと呼ばれるデバイス同士が直接データをやりとりする通信モデルを用いて、CPUに依存しない、デバイス主導の新しい高速ネットワークI/Oを提案する。
本年度は、アプリケーションからP2P DMAを利用するためのライブラリの開発を行った。また本ライブラリをEthernet NIC、NVMe SSD、そしてpcie-benchと呼ばれるFPGAで実装されたベンチマークデバイスの3つのデバイス用フレームワークに統合した。本実装を用いて、通常のDMAによるデバイス間I/Oに対して、P2P DMAを利用することで実際にどのような利点が得られるかの計測実験を行った。本実験によって、高いメモリ負荷がデバイスのI/Oスループットに影響すること、デバイスの特性と構成によってはP2P DMAを用いた場合でも性能低下が起きうることなどを示した。本実験の結果をまとめた論文は2020年8月に開催された国際会議、ACM SIGOPS Asia-Pacific Workshop on Systems (APSys'20)に採録されている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
令和2年度に予定していたP2P DMA自体を可能にするためのソフトウェアライブラリの実装は完了している。またそのライブラリを既存のデバイス用フレームワークに統合することで、今までP2P DMAを使うことが難しかったEthernet NIC、そしてNVMe SSDでのP2P DMAの利用も可能としている。これらの実装を用いて、本研究の対象であるP2P DMA自体の利点を明らかにする実験を行い、通常のDMAでは大きく性能が低下する状況でもP2P DMAであればそれを回避できること、一方デバイスによってはP2P DMAでもキューの構造に起因した性能低下が起きうることを明らかした。これらの成果は査読付き論文として国際会議に採録されている。さらに、今後のP2P DMAのネットワークI/O自体への応用を見据えて、ネットワーク越しに通信するために必要な経路制御や輻輳制御といったネットワークスタックとしての機能を、ホストCPUからEthernet NIC側で実現するための手法の調査、及びProof-of-Conceptの実装を進めている段階である。
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今後の研究の推進方策 |
今後は、P2P DMAを用いたネットワークI/Oを実現するためのより具体的な機能の研究開発を行う予定である。本年度までの実験では、Ethernet NICやNVMe SSDからP2P DMAでデータを転送する先のデバイスとして、FPGAベースの特別なデバイスを用いていた。これに対して、例えば複数のEthernet NIC間でP2P DMAを行うためには、NICが外部からDMA可能なメモリ領域を持たなければならない。このようなNICは現在は一般的ではないため、FPGAやSmart NICなどを用いて開発する必要がある。また経路制御や輻輳制御など通信を行うために必要な機能をEthernet NIC側で実現する手法についても並行して開発を行う。これには、現在普及しつつあるArm CPUを積んだSmart NICを用いる予定である。この2つの実現によって、CPUに依存しないデバイス主導の新しい高速ネットワークI/Oの実現を目指す。
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次年度使用額が生じた理由 |
令和2年度の実験に必要であった機器の一部を、既に持っていたものでまかなったためと、コロナ禍に伴う学会等のオンライン化のため。
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