本研究では、人間が物体表面から視覚を通じて感じ取る代表的な質感を対象に、物理量から人間が知覚する質感を定量化することによって、物体から人間が視覚的に知覚する質感を推定する質感定量化プロトタイプシステムを構築する。心理物理評価に基づいた人間の知覚情報処理の解析と、光学計測に基づいた物理情報の解析の双方から学際的にアプローチすることによって、知覚量と物理量の関係をモデル化し、正確で再現性のあるシステムの構築に取り組む。 本年度は、次の2点に注力して研究を遂行した。 ①様々な実物の材質を扱うことのできる汎用的なモデルを目指すため、前年度までに構築したプロトタイプシステムに対して、更なる解析とモデル再構築に取り組んだ。結果、ISOが推奨する任意角度の光沢度よりも、入反射60度の条件で計測した光沢度を物理指標として採用することで、精度が改善された。これは、光沢度と光沢感の獲得には、光学幾何条件が必ずしも同一である必要はないことを示唆する。 ②照明の指向性が物体の光沢感に与える影響を調査するために、心理物理実験を実施して解析を進めた。実験は、指向性の異なる高指向性照明および拡散性照明を組み合わせた照明下に、表面凹凸形状や反射特性の異なる実物体の実験サンプル(紙や樹脂、石など10材質からなる約100個)を設置して質感知覚量を評価した。また、物理量の解析に主として用いた実物表面の二次元輝度分布情報の獲得には、強光沢の広いダイナミックレンジをも包含するHDR画像の計測・解析を活用することで、精細な分布データを得られるよう技巧を凝らした。物理量・知覚量の相互関係を解析した結果、光沢感には光沢度とコントラストの影響が大きく、従来研究で重要と考えられてきたヘイズおよびDOIの物理指標は影響が小さいことが示唆された。 以上より、様々な実物体を対象に、物理量によって質感知覚を定量化できる可能性が示された。
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