本研究課題は,撮影画像からの解析が困難な生体の表面下構造・生体情報を獲得するための光伝播計測・解析手法を確立することが目的である.令和4年度は,生体の表面下散乱を単一の拡散層とみなすモデル化を行い,プロジェクタによる3次元形状復元を行った.従来,陰影を用いて法線形状を計測する照度差ステレオ法で再構成する場合,異なる位置の光源下で撮影した多数の観測画像が必要となる.本手法ではプロジェクタにより任意の位置に光源を作成し,学習により得られた最適な多重化パターンを利用し観測することにより少数の観測から法線を再構成することが可能になった.本研究は,コンピュータビジョン分野のトップカンファレンスの1つであるIEEE/CVF Winter Conference on Application of Computer Vision (WACV) 2023に採択された.また,国内会議ではMIRU2022において口頭発表を行った. 当初の研究計画においては,(1)計測手法の提案,(2)モデル化および解析,(3)学習用データセットの構築を目標としていた.(1)についてはプロジェクタ光源を用いた多重化した計測手法,(2)については深層学習をもちいた形状推定手法を提案した.これらは生体において高速かつ環境の変化に柔軟に対応可能な計測を可能にする.(3)についてはコンピュータグラフィックスによるデータ生成とデータ拡張手法の提案を行った.この手法は少数の生体データを拡張し深層学習に十分な入力データを生成する技術であり,サンプル採取が困難な生体の解析においては広い応用が期待できる.
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