昨今では運動支援デバイスのアシストやトレーニングによる身体的スキルや健康の増進が目指される.運動支援デバイスを活用しながら運動を継続するには,その運動目標に合わせて自身の思考・感情・行為等を適切に調整するというself-controlという心理的活動が必要となる.しかし,self-control(SC)に必要な心的資源を消耗すると,その後SCを継続できなくなる(自我消耗)ことが起こり,運動に真摯に取り組まなくなったり他のデバイスに買い替えたりと,運動支援デバイスの効果が十分に表れない場合もある. そこで本研究では外力によって運動が制御される中で生じる自我消耗とその後のSCへの影響を明らかにすることを目的とした.本研究では片手上腕でのダンベルカールを運動課題としたため,肘関節の屈曲/伸展運動を制御するようデザインしたPGM付きアシスト装置を実験参加者の片腕に装着した.PGMの収縮制御にはArduinoを用い,電磁弁を介した空気圧制御により伸縮タイミングの調整を可能とした.作成した実験器具により,運動支援デバイスによる自我消耗の生起を検証することが可能であった. また,SCへの影響を検討するにあたり,本研究では異なる形態のSC課題の成績を確認することとした.特に最終年度は,コメディ動画視聴中の表情への情動表出をSCする課題(情動SC課題)を用いた.その結果,PGMの介入条件によらず,実験参加者はダンベルカールの動きとテンポを一定に保つよう動作SCを行なった一方で,PGMが屈曲動作をアシストする条件で最も主観的なEDが小さかったことが示された.しかし,情動SC課題ではPGMの介入条件差は見られず,実際に情動表出の抑制にかかるEDの出現は確認できなかった.今後は異なる情動SCの対象や形式でのED表出の検証に加え,SC方略の認知選択など定性的なED表出の特徴についてもアプローチする.
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