研究課題/領域番号 |
20K19858
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研究機関 | 東京工業大学 |
研究代表者 |
内山 瑛美子 東京工業大学, 工学院, 助教 (30845269)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 筋協調解析 / 赤池情報量 / テキストマイニング / 転倒実態解明 |
研究実績の概要 |
本研究では転倒のうち多数を占める躓き・ふらつきに着目したリスク因子の探索・発見を目的としている.今年度は新型コロナウイルスの流行により,感染リスクの高い高齢者を対象にした実験・計測が不可能となったため,予定を大幅に変更し,既存データの見直しと解析を行うとともに,基礎データの解析手法開発を行った. 今年度得られた成果は下記の通りである. (1)膝前十字靱帯損傷リスクのスクリーニングテストであるDrop Vertical Jumpテストを行った際の,逆動力学計算により得られた着地時の足の筋張力推定データ(既存データ)を用いて運動による怪我のリスクを探索する研究を行った.筋張力情報を自己回帰モデルとみなすことで赤池情報量を用いて類似度を計算し,各筋張力の時系列変化をデータ分布とみなした際にどの筋の時間分布が類似しているのかを解析することで,筋の協調を解析する手法を提案した.提案した方法で,四頭筋群の活動の赤池情報量が相互に近い値を取るということが確認された. (2)研究の基礎データを得るための解析法として,テキストマイニングを通じて転倒実態を把握するための手法を考案した.転倒による大腿骨骨折で入院した高齢者のヒアリング調査のテキストデータ(既存データ)からBag of Wordsを作成し,最頻10語とその共起語を特徴量として転倒の種類を解析する手法を提案した.提案した手法の有用性の評価のために,提案した特徴量でナイーブベイズモデルを用いて転倒の種類(予期せぬ力による転倒・バランスを崩した転倒・その他の3種)を識別する実験を行った.ヒアリングの要約文から抽出した特徴量を学習させ,ヒアリング調査のテキストデータから抽出した特徴量を識別したところ,平均識別率61.1%を得た.この結果より,頻出語彙とその共起語が転倒の種類の特徴を適切に表せていたことが示唆される.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
新型コロナウイルス感染拡大に伴う下記の影響のため,進捗は想定よりもやや遅れている. (1) 本研究課題では高齢者を計測の対象としているが,新型コロナウイルス感染拡大により,予備実験も含めて予定していた計測を行うことができなかった. (2) 過去のデータ解析を中心に研究を進めたものの,新型コロナウイルス感染予防のための諸要請に伴い研究活動が制限され,十分な研究時間を確保することができなかった. (3) 今年度研究機関の異動があり,4月から1ヶ月の産後休業を経て復職した.新型コロナウイルス感染拡大により,異動に伴う研究環境の移行及び新たな研究機関での倫理審査の手続きが遅れ研究実施ができない期間が長引いた.また(2)とも関連するが,新型コロナウイルス感染予防に伴う種々の自粛要請の影響で,復職のための環境整備を十分に行えず,研究を支障なく推進する体制が整わなかった.
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今後の研究の推進方策 |
今年度実施できなかった計測について,共同研究先が2021年度秋に実施予定の調査において,計測項目に,本研究で提案するアセスメント項目を入れ込む方向で調整を行う.またアセスメントツール開発のための追実験にむけ,心理物理学の専門家と協働し,計測の準備を進めている.新型コロナウイルスの情勢によっては,予定していた計測ができなくなる可能性も踏まえ,既存データの解析は引き続き進める. 以上の方針より,今後の研究方策を下記の通り計画している. (1) 躓きモデルの改良及び妥当性検証のため,眼科的な奥行知覚・深視力の計測と提案手法との対応をとり,解析を行う. (2) 既存データを活用し,ふらつきモデルの構築に努める.具体的には,運動前後の立位安静時の圧力中心及び重心のデータから,倒立振子モデルの安定性の議論を通じて,モデルパラメータを用いて参加者のバランス力を表現する. (3) 研究の基礎データとして転倒実態の収集・解析を行う.テキストマイニングを通じ,躓きやふらつきなどの転倒の種類による事故状況の違いを特徴量空間上に表し,転倒に伴う受傷を引き起こす危険な環境・状況を表現するモデルを獲得する. (4) (1)(2)で構築した躓き・ふらつきを引き起こす身体モデルと(3)で構築した受傷を伴うような転倒を引き起こす環境モデルとを統合し,マルチモーダルに転倒リスクを探索する.
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次年度使用額が生じた理由 |
新型コロナ感染拡大に伴い,予定していた国際会議への参加及び計測出張が全て中止となったため.次年度以降の計測における,新型コロナ感染予防対策のための消耗品購入に充てる予定である.
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