本研究の目標は,脳波の位相同期現象に反映される脳機能ネットワークの時系列変化をに推定するためのデータ駆動的解析手法を確立することである.
これまでの進捗から,脳波をはじめとする脳神経活動の同期性に着目した脳機能ネットワークの時系列推定には,時間依存的に変化するダイナミクスを考慮したモデルによる定量が必要であることがわかっている.そのため,これまでの研究では,計画当初想定していた観測時系列データ間の相互作用に線形性を仮定したtime-varying graphical lasso (TVGL)を拡張した手法ではなく,脳波の位相同期現象に結合位相振動子系を仮定したモデルベースのネットワーク推定手法の適用に方針を変えて研究を進めていた.その結果として,新規手法が従来想定した手法よりも妥当である可能性を数値シミュレーションと脳波データ解析両方の結果から明らかにした.これらの成果を基に昨年度は,前述のモデルベースのネットワーク推定にベイズ的なアプローチを取り入れ,時系列モデルの変化点検知のアルゴリズムと組み合わせた手法を提案することで,脳機能ネットワークの時間発展と変化点を同時に定量する手法を確立し,その成果を論文化することができた.
本年度は,上記の提案手法を用いて,最終的な目標である脳波-fMRI同時計測データへの適用を検討した.コロナ禍や研究代表者の所属機関異動などの影響から,実験プロトコルの策定や,実験参加者のリクルート及び実験計測の実施に困難が生じ,進捗に遅延を要したが,実験計測を行うことができ,収集した同時計測データに対する提案手法の適用と前処理を含む解析アプローチの検討を進めることができた.
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