研究課題/領域番号 |
20K19878
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研究機関 | 国立研究開発法人産業技術総合研究所 |
研究代表者 |
渡邉 研斗 国立研究開発法人産業技術総合研究所, 情報・人間工学領域, 研究員 (50828324)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 自然言語処理 / 音楽情報処理 / ヒューマンコンピュータインタラクション / 創作支援 / 歌詞情報処理 |
研究実績の概要 |
本年度は、歌詞や詩などの創作的文章の創作支援を行うための基盤技術として、作者の意図を反映した歌詞生成技術を開発した。従来の歌詞生成技術には大きく2つの課題点があった。(1)バラード楽曲では “love” が、メタル楽曲では “death” 等が使われやすいように曲調に歌詞をあわせることがあるが、従来手法には,曲調を考慮した生成手法はなかった。(2)作詞作業では、ありがちな表現とありがちでない表現を使い分けることで歌詞を作成するため、自動歌詞生成において「ありがちかどうか」を考慮することは重要となる。しかし、従来研究は巨大な歌詞データを基に、統計的に「ありがちな」単語列を生成してきたため、魅力的な歌詞を生成することが難しかった。そこで、「曲調を表現した音響信号」と「ありがちでない単語」を多次元ベクトルとして表現し、これらが近くに配置されるようなベクトル空間を構築することで、”音楽の雰囲気”と”正しい文法”の両方を満たした単語を補完する作詞支援技術を開発した。実験の結果、従来の歌詞生成手法と比較して音響信号に対してありがちでない単語の補完が可能になったことがわかった。さらに、音響信号と単語には相関関係があるということを、巨大の音楽データセットから定量的に観測できた点も学術的に価値のある結果となり、これらの成果をまとめた論文が国際会議Multimedia Modelingに採択された。本技術を機能として組み込むことで、創作活動における作者の意図・主張を反映した作詞支援システムの開発へと繋げることができる。さらに本年度は、大量の歌詞テキストを意味の繋がった文として整形するアノテーション作業を実施し、より深い歌詞の意味解析に取り組む準備のためのデータセットの作成を進めた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
歌詞データは「曖昧表現が多く」、「データフォーマットが統一されていない」ため、作者の意図を解析することは困難であると判断した。そこで、本年度に実施予定であった「作者の意図を表現した時系列関係構造データの作成」ではなく、まずは歌詞データの整形作業をすることで、より深い意味解析のための準備を行い、次年度の歌詞分析システムの開発につながる成果をあげることができた。また、データ整形作業という基盤技術側の研究開発だけではなく、作詞支援技術という応用技術側の研究開発も進めることで、本計画の課題である「包括的な作文支援システム」の開発に着手した。とくに作詞支援技術の開発は国際論文として採択された点からも、現在までの進捗状況は概ね順調に進展していると言える。
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今後の研究の推進方策 |
本研究計画の課題である「作者の意図抽出と文章の自動生成を融合した包括的な作文支援システム」を開発する上で、文章に記載されている「作者の意図」を始め様々な文章に関する意味内容を解析することは重要な要素技術である。そこで、次年度は初年度に構築したデータセット等や、申請者のこれまで研究開発してきた言語解析技術を用いて、「創作者が歌詞の内容や作者の意図を分析しやすくなる技術またはシステム」の開発に着手し、様々な歌詞の性質や傾向を分析するだけでなく、本システムによって創作がどのように加速されるかを分析する。
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次年度使用額が生じた理由 |
国際会議参加のための海外出張を予定していたが、新型コロナウィルス感染拡大防止のため、渡航禁止となり、出張する必要がなくなったため、次年度使用額が生じた。次年度は研究開発用の計算機の購入に使用する。
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