研究課題/領域番号 |
20K19884
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研究機関 | 山口大学 |
研究代表者 |
上田 仁彦 山口大学, 大学院創成科学研究科, 准教授 (00826571)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2025-03-31
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キーワード | 繰り返しゲーム / ゼロ行列式戦略 / ポテンシャルゲーム |
研究実績の概要 |
ゼロ行列式戦略は繰り返しゲームにおいて、他のプレイヤーの戦略によらずに一方的に利得に線形関係式を課すような戦略クラスである。これまでに囚人のジレンマゲームや公共財ゲームなどの具体的な状況においては多くの性質が研究されてきた一方で、ゲームによらない一般的な性質については明らかでない部分が多かった。申請者は本課題開始前からゼロ行列式戦略のこのような一般的性質に注目して研究を行ってきていた。本年度も、ゼロ行列式戦略の数学的性質の研究をさらに進めた。結果として、以下の二つの成果を得た。 まず、行動空間が有限で離散的なゲームにおいて、ゼロ行列式戦略が存在する場合は、ゼロ行列式戦略は必ず1次元的な確率過程で実現できることを証明した。この結果は、行動空間に1次元的な制約が存在する場合にもゼロ行列式戦略は実装可能であることを示している。この定理は昨年度申請者が得たゼロ行列式戦略の存在条件における遷移確率を等価な形に修正することで得られた。 さらに、(2人の利得が恒等的に等しいという自明な状況でない)非自明な2人ポテンシャルゲームにおいてはゼロ行列式戦略が必ず存在することを証明した。このゼロ行列式戦略は2人の利得の差をある値に一方的に固定するような戦略となっている。この結果は2人対称ポテンシャルゲームにおいて申請者が昨年度得た結果の拡張となっている。 以上の結果はゼロ行列式戦略を現実的な状況において実装する際に有用であると考えられ、論文としての公表を準備中である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
ゼロ行列式戦略の数学的性質については未解明な部分が多いが、本年度の研究結果はこの理解を一歩進めるものである。ただし、未だはっきりしない点も多い。第一の結果については、直観的な意義があるのではないかという気がするが、現時点では明らかではない。また、この定理が有用となる具体的設定の発見も行えていない。また、第二の結果については、3人以上のポテンシャルゲームに対して拡張可能であるかどうかは全く不明瞭である。これらの点についても今後さらに理解を進めたい。
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今後の研究の推進方策 |
今後はまず本年度得られた結果を論文として出版することが最優先課題である。さらに、ゼロ行列式戦略を制御理論の分野にも応用可能でないかを考えたい。ゼロ行列式戦略は繰り返しゲームにおいて、他のプレイヤーの戦略によらずに一方的に利得に線形関係式を課す。このような一方的な利得の制御の性質が、制御理論においても有用となる可能性がある。特に、マルコフ決定過程においては昨年度得られた結果を用いれば原理的にはゼロ行列式戦略の存在を判定できるので、これを用いて代表的な確率システムの制御問題にゼロ行列式戦略を適用できないかを検証したい。
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次年度使用額が生じた理由 |
届出の通り2023年8月3日から1年間の育児休業に入ったため、本年度は実質的に4ヶ月しか研究活動を行っておらず、研究はあまり進んでいない。また、指導大学院生が進路検討の結果退学することになり、旅費も未使用となった。 来年度は今年度得られた結果を論文として出版することを目標とし、出版された場合はオープンアクセス化する予定である。また、2020年度に購入したラップトップPCの買い替えも行う予定である。
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