研究課題/領域番号 |
20K19889
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研究機関 | 九州大学 |
研究代表者 |
徳田 悟 九州大学, 情報基盤研究開発センター, 助教 (50787322)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | ベイズ推定 / 条件付き独立性 / 不確実性定量化 / モデル選択 |
研究実績の概要 |
本プロジェクトでは、条件付き独立な観測に基づく統計的推測における漸近理論の構築を目指すとともに、条件付き独立な観測の例である画像や時系列を対象とした実践的研究を相補的に行い、知見の利活用と問題意識のフィードバックによる研究の好循環を狙っている。今年度は特に画像を対象とした2つの実践的研究に注力した。 まず、ベイズ推定に基づく速度分布関数のモデル選択を提案した。磁化プラズマにおけるイオン速度分布関数はレーザー誘起蛍光法によってスペクトル(一次元画像)として観測される。これは数理的には条件付き独立な観測とみなせる。提案法では速度分布関数の妥当性を周辺尤度に基づいて評価する。理論モデルである複数の候補のうち、実験データに対してどれが妥当なものかはしばしば論争になるが、提案法はこうした議論に一つの指針を与える。研究代表者らの共同研究グループは、直線磁化プラズマ実験装置から得られたデータに提案法を適用し、その有効性を実証した。 次に、物質の電子状態に関する網羅的なモデリングを提案した。固体の表面電子状態は角度分解光電子分光によって光電子スペクトル(二次元画像)として観測される。これも数理的には条件付き独立な観測とみなせる。提案法では、バンド構造をパラメトリックに、自己エネルギーや行列要素などをノンパラメトリックに記述し、それらをセミパラメトリック推定する。バンド構造に関する複数の有効モデルのうち、実験データに対してどれが妥当かはしばしば論争になるが、提案法は周辺尤度に基づくモデル選択によってこうした議論にも一つの指針を与える。研究代表者らの共同研究グループは、トポロジカル絶縁体の一種であるTlBi(S,Se)_2の表面電子状態に関するデータに提案法を適用し、ディラック電子の質量を正確に決定した。同物質中のディラック電子に有限の質量があるかは10年来の論争であり、本成果は一つの解を与えた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
2つの実践的研究を通じて、漸近理論の構築に向けた有益なフィードバックが得られた。磁化プラズマにおけるイオン速度分布関数の推定は、モデルとデータの一致性がよく、本プロジェクトで構築する漸近理論の実証にも適している。一方、実践的な観点では、条件付き独立な観測であるとみなせるような状況はいくつかの実験条件やデータの処理によって限定されることもわかった。固体の表面電子状態に関する網羅的なモデリングでは、物性理論が扱うような理想化したモデルとデータの一致性は必ずしもよくないものであり、モデル不一致をいかに扱うかが漸近理論の実証の上でも重要であることがわかった。これまでの研究成果が示すように、セミパラメトリックモデリングがこの問題に対する一つの汎用的なアプローチとなることが今後も期待される。
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今後の研究の推進方策 |
引き続き、漸近理論の構築と実践研究を相補的に進める。目的達成を目指し、知見の利活用と問題意識のフィードバックを通じて、柔軟に研究を展開してゆく。
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次年度使用額が生じた理由 |
コロナ禍での出張制限などの状況の変化によるもの
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