本研究では眼球運動によって時間方向に空間的な視覚情報を符号化する装置(光学式視線制御装置)を開発し、それを応用することで、体-眼球運動下における視覚機能の分析とその工学応用を目指している。 最終年度においては昨年度構築した眼球固視微動を模擬する光学式視線制御装置と高速ビジョン装置を組み合わせて、主に三つの課題に取り組んだ。一つ目の課題として、今年度は生体網膜の出力段である神経節細胞の視覚符号化の理解のために、その受容野の時空間的特性が固視微動によって、どのように変化するかを検討するための網膜神経回路モデルを提案し、その基本要素の動作確認をソフトウェア・シミュレーションで実施した。二つ目の課題として、フレームレスカメラ(イベント駆動型カメラ)を用いた両眼プラットフォームを構築した。両眼システムはステッピングモータによって、基線長と注視点を変更することができ、両眼視における固視微動の役割を理解するための視覚入力を生成することができる。ここではイベント駆動型カメラの出力に時間フィルタを適用することで、イベントが生成したタイミング情報を含んだタイムサーフェス画像を生成し、両眼マッチングを実行する手法について検討した。三つ目の課題として、物体を注視する状態を持続するために、イベント駆動型カメラ出力に適した物体追跡手法について検討した。イベント生成に合わせて状態遷移と尤度の計算を実行する時系列フィルタ・アルゴリズムを提案し、その評価実験を実施した。
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