研究実績の概要 |
人間を含む動物では、不快な刺激や感情を回避しようとする嫌悪動因が広く見られる。これは生存の確率を高める上で重要な役割を持つと考えられる。一方、人間の様々な行動で「不快さ」が欲求の対象となる例も散見される。例えば音楽鑑賞では、通常感情心理学においては回避される感情であるところの「悲しみ」を表現する音楽を人々が進んで聴取することがある。 音楽領域の研究では、音楽が表現する感情と聴取者が経験する感情が区別され(Gabrielsson, 2002)、報告者の実験的研究では両者が一致しない状況が確認されている(Kawakamiら, 2013)。すなわち、悲しみを表現する音楽が一方では肯定的な感情を喚起する。こうした悲しい音楽で経験される感情や選好の形成には個人差が存在し、共感性の影響が指摘されている(Vuoskoskiら, 2012)。報告者の研究では、共感性のうち視点取得の能力が悲しい音楽への肯定的感情と選好に寄与することが示された(Kawakami & Katahira, 2015)。 本研究課題では、核心をなす学術的「問い」として「嫌悪対象への選好形成に共通する基盤は存在するのか」を設定し、人を対象とした心理実験及び神経活動計測を行う予定である。 ただし、今年度は、予期せぬ世界的大流行を引き起こしている新型コロナウイルスによる影響で、感染拡大防止の観点から人を集めて実験に参加してもらうこと自体が難しい状況となったため、やむなく来年度に心理実験を実施することになった。 今年度は心理実験で使用する音楽刺激についてバリエーションを増やし、素材を新たに追加作成した。
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