本研究は、タンパク質立体構造を入力とするマルチタスク深層学習を行い、低計算コスト・高精度の隠された(cryptic)結合部位予測手法を開発し薬剤標的タンパク質の選択に有用な情報を視覚的に提供するものであった。しかしながら、2023年度にMellerらがAlphaFoldと深層学習を併用した高性能な予測手法を開発し、 Nature Communication に採録されたことから、シミュレーションで正確に評価する方針に切り替えることとなった。 <2023年度の進捗状況> 2023年度は、まずInverse MSMD と呼ばれる、リガンド分子の性質に着目した手法を提案し、MDPI IJMS 誌に採録された。これは15件のタンパク質との共溶媒分子動力学 (MSMD) 法を事前に実施することで、新規タンパク質に対してはMSMDを行わずして結果を得ることができる手法であり、シミュレーションに基づきつつも計算コストの削減を狙った。続いて、アミノ酸を使って MSMD を行うことで、隠されていた結合ポケットが検出できることを発見した。アミノ酸を用いることで、近年の創薬モダリティの1つであるペプチド創薬に直結する情報が得られる。本手法は現在国際論文誌 JCIM 誌に投稿準備中である。 <研究期間全体の成果> 2021年度から2022年度にかけては CNN を用いた隠された結合部位の予測モデルの構築を実施し、テストデータに対するROC曲線下面積 AUROC で0.718の成果を得た。また、分子動力学シミュレーションによるデータ増加も実現した。一方、分野の研究動向に従い、2023年度はシミュレーションに軸足を置き、タンパク質の動的変化を考慮しつつも比較的高速な手法の開発に従事した。本研究期間全体で主著国際論文4報、共著国際論文6報の成果を得ることができており、おおむね順調に研究を遂行することができた。
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