白色脂肪細胞はエネルギーを貯蔵し、食欲を抑制する飽食ホルモンのレプチンを分泌する。レプチンは肥満や糖尿病など生命と健康にとって重要なホルモンだが、その分泌メカニズムは十分に解明されていない。膵臓のβ細胞は、代謝振動とインスリン分泌を連動させて振動的にインスリン分泌する事で効率的なシグナル伝達を実現にしていると考えられている。申請者は脂肪細胞でもβ細胞と同様にホルモン分泌と代謝振動が連動しており、効率的なシグナル伝達を実現しているのではないかと推察し、代謝振動によってホルモン分泌機構の解明を試みた。 昨年度は白色脂肪細胞3T3-L1の代謝振動を観察できたが、予備的な結果に過ぎなかった。これまでは非常に弱いNADHの自家蛍光で代謝振動を測定するためにスライドグラス上で培養・分化・観察してきたが、3T3-L1はスライドグラス上では分化効率が非常に悪い等の問題があり、代謝振動の観察は非常に困難だった。様々なスライドグラスを用いたが再現性は改善しなかった。しかし、確実に培養・分化できる表面処理をした蛍光観察用96ウェルプレートで培養・分化させ、強い蛍光を放つ色素でミトコンドリア膜電位の代謝振動を測定する事で比較的安定的に観察することに成功した。 更に、白色脂肪細胞に加えて褐色脂肪細胞C3H10T1/2を新たに使用した。褐色脂肪細胞もまたホルモンを分泌する他、発熱によってエネルギーを大量に消費するなど肥満・糖尿病にとって重要な細胞だからである。白色脂肪細胞で明らかにした上記の観測手法より、褐色脂肪細胞もまた代謝振動を示す事を明らかにした。 以上より、本年度の研究により、白色脂肪細胞だけでなく褐色脂肪細胞においても安定的に代謝振動を観察する事に成功した。
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