研究課題/領域番号 |
20K19932
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研究機関 | 奈良先端科学技術大学院大学 |
研究代表者 |
矢田 竣太郎 奈良先端科学技術大学院大学, 先端科学技術研究科, 助教 (60866226)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | フィルターバブル / Twitter / 押し付けがましさ / 心理リアクタンス / 災害 / 医療 / モバイルアプリケーション |
研究実績の概要 |
本研究は,医療や災害など誰にとっても暴露に値する情報(普遍的重要情報)をさりげなく,しかし受容されやすく表示するソーシャルメディア上のUI/UXの開発を目的とする.本年度は,普遍的重要情報とみなせるソーシャルメディア上の発言を大規模に収集した.ソーシャルメディアの例としてTwitterを設定し,医療や災害に関して有用な情報を発信しているアカウントの発言(ツイート)を対象とした.具体的には警察庁防災課やYahoo!防災などの機関公式アカウントである.一部は初年度にすでに収集していたが,今年度は収集期間を延ばすとともに,これらのツイートを引用した第三者のツイート(引用ツイート)も追加で収集した.引用ツイートは個人の意見が付与され,元のツイートよりも親しみやすい内容になっているケースが多いため,提示する情報源として受容されやすいのではないかと考えた.さらに,ツイートの親しみやすさに関わる言語的特徴を捉えるため,ツイートの内容が受信者(読み手)の属性(性別・年代)に適しているか測定する言語処理手法を開発した.以上により,収集した普遍的重要情報ツイートの提示方法(頻度,表示形式,位置など)を,昨年度開発した提示用アプリケーションを用いて検証実験できる段階となったが,Twitter社の運営母体が変わり,実験に必要なAPIの動作と仕様が不安定となったため,やむなく開始を見送り,研究期間を延長することとした.来年度は当該APIの使用可能性に応じて,Twitterを用いた当初計画通りの実験か,Twitterを模した擬似ソーシャルメディアまたは代替プラットフォームを用いた実験を実施する.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
医療や災害など誰にとっても暴露に値する情報(普遍的重要情報)の候補となるツイートを大規模に拡充した.初年度に試験的に一定の規模を収集していたが,実験開始時期に合わせ内容をアップデートするとともに,これらを引用する第三者のツイート(引用ツイート)も対象に含めることとした.具体的には,起点として公的機関や民間による医療・災害の有用情報を発信する公式のTwitterアカウントのツイートを収集し,各ツイートについて引用ツイートを取得している.起点となるツイートがやや改まった内容であるのに対し,引用ツイートには第三者の感想や個人的体験への言及が付与される.これらのツイートを普段閲覧しないユーザに普遍的重要情報としてこれらを強制的に提示する場合,内容が個人的である方が親しみやすいのではないかと考えた.Twitter公式アプリを模したアプリケーション(昨年度開発)を用いた実験においては,起点ツイートと引用ツイートの双方をランダムに提示し,ユーザへの受容度の違いを分析したい. 情報としての内容は同じでも,ツイートの言語的表現の差異が受信者(読み手)に与える影響は無視できず,適切に考慮する必要がある.雑誌の公式アカウントが読者層に向けて情報発信する場合など,ツイート自体が特定の受信者層に受容されやすい「指向性」を持っていることがあり,「誰に向けて書かれているか」を客観的に測定することはその方法の一つと考え,事前学習済み言語モデルを用いた「指向性」分類手法も構築した. このように,昨年度開発した実験用アプリケーションで提示する材料となる普遍的重要情報は揃ったが,実験開始を前に,Twitter社の運営母体が変わり,開発者・研究者向けにツイートを提供するAPIの動作と仕様が大きく変更されることとなったため,研究期間を1年延長する判断に至った.
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今後の研究の推進方策 |
Twitter社のツイート提供APIの使用可能性に応じて,Twitterを用いた当初計画通りの実験か,Twitterを模した擬似ソーシャルメディアまたは代替プラットフォームを用いた実験を実施する. 当初計画通りの実験は,実験協力者が個人的に使用するTwitterアカウントで実験アプリにログインしてもらい,普遍的重要情報を種々の条件で提示する.このとき実験協力者が閲覧するのは,当人が個人的にTwitter公式アプリで閲覧する内容に加え,普遍的重要情報が挿入されたツイートタイムラインである.一方,TwitterのAPIが使えない場合は,Twitterを擬似的に再現した仮想のソーシャルメディアのタイムラインを用いるか,Twitterを代替する目的で第三者が構築した別のソーシャルメディア (Mastodon, Misskey, Blueskyなど)の利用者を想定した実験環境を構築する. いずれにしても長期にわたる情報への断続的な暴露を測定するので,数ヶ月以上の実験を計画しているが,実験終了をまたず,1週間や1ヶ月単位で順次分析を開始する予定である.分析対象はアプリの操作ログに加え,追跡可能な5名程度に直接聞き取りをする小規模質的データおよび追跡不能な数十名以上にオンラインでアンケートをする大規模質的データとする予定である.
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次年度使用額が生じた理由 |
本研究が実験に仕様するアプリケーションが依存するTwitter社の運営母体が変わり,開発者・研究者向けにツイートを提供するAPIの動作と仕様が大きく変更されることとなったため,実験を開始できなかった.したがって実験協力者に支払う謝金を中心に次年度使用額が発生している.
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