研究課題/領域番号 |
20K19943
|
研究機関 | 沖縄工業高等専門学校 |
研究代表者 |
宮城 桂 沖縄工業高等専門学校, 情報通信システム工学科, 講師 (00734550)
|
研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
|
キーワード | 歌三線 / 歌唱技能 / フォルマント |
研究実績の概要 |
今年度は、歌三線の中でも代表的な『かぎやで風節』を対象に、音響的特徴としてフォルマントのふるまいに着目し、歌唱音声の特徴について分析を行った。その結果、熟練者の歌唱において、16名中15名で4000Hz付近に歌三線特有のフォルマントが安定して生起する事が確認された。この特徴は、歌三線の初心者ではほとんど観測されず、経験を積むにつれて、より強いスペクトルが現れる傾向にある事が明らかとなった。この音響的特徴は、優れた歌い手に共通して生起するとされているシンガーズ・フォルマント(Sundberg,JASA,1974)として、歌三線における習熟度を決める本質的要素と深く関連する可能性が高い。さらに、第一フォルマントにおいて、熟練者の歌唱は初心者・経験者と比べて200Hz程度、高い周波数帯に表れる事も分かった。歌三線は、まっすぐな地声で高音域まで歌いきるところが音色の特徴になっているとされているが、その特徴との関連を示唆するものであると考えている。また、これら2つの音響的特徴は、歌三線の科学的伝承法を実現する上で重要な指標の一つであると考えられる。そこで、本研究では、これら特徴をリアルタイムで可視化するシステムも構築した。これにより、熟練者の技能を誰でも認識可能な「形式知」へと変換する事を目的としている。歌唱技能を形式知として、リアルタイムに可視化できれば、学習者に視覚的に熟練者の歌唱(模範)との差を「見える化」し、模範となるフォルマントのふるまいを真似るように発声を反復すことで技能の習得を支援する事が出来る可能性がある。 現在は、他の楽曲における歌声の音響的特徴についても分析を進めており、近く学会発表を行い、研究成果を広く知ってもらうとともに、有識者との意見交換を行う予定である。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
当初予期していなかった以下の理由により、計画よりも進捗がやや遅れている。
1.新型コロナウイルスの蔓延によって研究会が中止となり、予定していた成果発表2件が出来なかった。 2.新型コロナウイルスの感染予防のため、予定していた沖縄県立芸術大学での歌唱データの取得や、打ち合わせが十分にできなくなった。
そこで、沖縄県立芸術大学での歌唱データを取得する代わりに、CDなどの音源データを用いる事で、ある程度の成果が得られた。
|
今後の研究の推進方策 |
前年度に引き続き、技能伝承支援システムの開発を行う。その際、沖縄県立芸術大学と連携して、構築したシステムの改善を行う。令和3年度上期では、歌三線の学習者に対して、技能向上のための適切な指導内容をフィードバックするためのAIの開発に取り組む。そのために、歌三線における具体的な指導方法を指導者から聞き取る。その推進には以下の方策で取り組む。 (1)沖縄県立大学と連携し、これまでに得られた知見に対するフィードバックを得る。 (2)データ取得については、新型コロナウイルスの状況を鑑みつつ可能な範囲で実施する。 (3)最新の分析結果を取り纏め、Teams等を用いてコロナ禍においても、ディスカッションできる環境を用意し、助言やフィードバックを得て、更なる改善を行う。
|
次年度使用額が生じた理由 |
予期していなかった新型コロナウイルスの蔓延と感染予防によって、参加を予定していた会議が中止となっただけでなく、実施を予定していた沖縄県立芸術大学における歌唱データの取得や打ち合わせ等も中止せざるを得なかった。そのため、旅費や謝金を使いきれず残額が生じた。令和3年度は、新型コロナウイルスの状況を鑑みつつ、可能な範囲で沖縄県立芸術大学とも連携して研究を実施すると共に、状況に応じた分析手法を選択し、成果を着実に出すために助成金を使用する。
|