研究実績の概要 |
福島県の林業復興上、樹木によるCs-137吸収量の将来予測を行うことが求められているが、土壌中の可給態Cs-137と樹木根による吸収量の間には明確な関係が得られていない。その理由の1つとして、森林では土壌やCs-137沈着量が空間的に不均一であることが上げられる。とくに、粗孔隙や根の表面などを伝って不均一に流れる選択流がCs-137の下方移行や生物利用性に寄与していることが考えられるが、これを定量的に評価した研究は少ない。そこで、本年度は、まず帰宅困難区域に位置する森林内で染料を用いた人工降雨実験を行い、染色部分と非染色部分の土壌を深度別に採取し、形態別Cs-137の定量を行った。 その結果、染色部分の土壌は、非染色部分と比較して単位重量あたりの根および新鮮有機物含量が多く、有機物量、CEC、水溶態・交換態陽イオン量が高いなどの特徴が認められた。同一深度内での染色部分と非染色部分のCs-137濃度の比を取ると、0-2, 2-4, 4-6, 6-10 cmでそれぞれ0.98, 1.48, 1.51, 2.64と深くなるにつれて染色部分の濃度比が高くなっており、選択流の影響を受けていること、さらには事故から10年近く経過しても選択流の経路は比較的安定であったことが示唆された。6段階の逐次抽出による形態分析の結果、残渣画分を除くいずれの画分においても染色部分の方がわずかではあるものの、その割合が高い傾向にあった。これらの結果は、根の周囲など選択流が流れ易い部位に可給性の高いCs-137が高濃度に集積している可能性を示唆しており、下方移行への影響だけではなく、経根吸収を評価する上でも重要な知見であると考えられた。この成果については、国内学会で発表した。
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