研究実績の概要 |
福島第一原子力発電所事故により森林に沈着したCs-137は、空間的不均一性が非常に高いことが知られている。本研究では、この空間的不均一性を生む要因として土壌中での選択流に着目し、研究を実施した。 本年度は、これまでの土壌サンプルについて根や礫含量、交換態セシウム137濃度などさらなる分析を行った。交換態セシウム137分析の結果、全セシウム137濃度と同様に、0-5 cm深では飽和透水係数との相関は認められず、10-15 cmでのみ飽和透水係数が高いほど交換態セシウム137濃度が高い傾向が示された。しかし、交換態の存在割合との間には相関は認められず、選択流は交換態の割合を増やすほどの影響はないことが示唆された。また、10-15 cmでは、全セシウム137と交換態セシウム137濃度の間に極めて高い正の相関(n=25, r=0.89, p<0.001)が得られたものの、0-5 cmではその関係は認められず、可給態セシウムの供給源が複数あることが示唆された。また、水で抽出した染料(ローダミンB)濃度と根やレキ含量との関係を調べたところ、表層では根、次表層ではレキが多いほど、選択流の移動経路に与える影響が強い可能性が示唆された。 研究機関全体を通して、降雨の選択流の影響によってとくに10-15 cm深の土壌中の放射性セシウム濃度の不均一性が有意に高くなり、その濃度も高くなる傾向が示された。この選択流が流れやすい部分は、根やレキが多く、飽和透水係数が高く、仮比重が低い傾向にあり、さらに10-15 cmにおいては交換態セシウム濃度も高くなっており、当初の仮説の通り、選択流によって放射性セシウムの空間的不均一性と可給性が高まっていることが示された。
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