研究課題/領域番号 |
20K19955
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
大沼 友貴彦 東京大学, 生産技術研究所, 特任研究員 (30800833)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 雪氷学 / 雪氷微生物 / 数値モデリング / 陸面モデル |
研究実績の概要 |
2020年度は雪氷藻類の繁殖を再現する数値モデル(snow algae model)の開発を実施し、従来のモデルに日照時間の有無による増殖判定と降雪被覆による積雪表面の細胞濃度の減少の効果を追加した。感染拡大防止の観点から、当初予定していた海外氷河調査は実施できなかったものの、文献調査を進め全球15地域の雪氷藻類の細胞濃度の現地観測データを入手し、snow algae modelの妥当性を検証した。検証の結果、アップデートされたモデルは、数日から10日ほどの誤差があるものの、北極から南極までの全球の赤雪発生日を概ね妥当に再現できることが示唆された。この計算誤差は、夏季に降雪の発生するヒマラヤ地域で特に大きいことが明らかになった。snow algae modelは陸面過程モデルの最新版であるMATSIRO6に導入され、世界初の雪氷藻類繁殖の全球計算を実施した。この成果は論文としてまとめられ、国際誌に投稿された。加えて、雪氷藻類繁殖による積雪アルベド低下を計算する放射伝達過程を考慮した積雪アルベド物理モデルを国際論文として発表した。この論文では、北極圏グリーンランドの赤雪発生により、積雪アルベドが最大0.15ほど低下することが示唆された。そして、snow algae modelと組み合わせた数値シミュレーションにより、グリーンランド北西部の積雪の融解期間が5日間延長すると、雪氷藻類繁殖によってアルベドが0.03ほど低下する可能性があることがわかった。また、雪氷藻類の数値モデル開発の現状をまとめた総説論文を日本の学会誌にて発表した。研究費は、主にこれらの論文出版費用、英文校正費用に使用した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
snow algae modelの開発が順調に進み、開発されたモデルの妥当性が全球の15地域にて検証された。高緯度から中緯度の広域でモデルを適用するために、新しく日照時間の有無による細胞増殖判定と、降雪被覆による細胞濃度減少の効果をsnow algae modelに導入した。開発したモデルは陸面過程モデルに導入、世界初の雪氷藻類繁殖の全球計算も実施し、当初の主目的であった積雪域における雪氷藻類繁殖モデルの全球展開は完了した。2020年度末に、この成果をまとめた論文も国際誌に投稿した。以上より、本研究課題はおおむね順調に進展している、と評価した。
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今後の研究の推進方策 |
2021年度は、雪氷藻類モデルの開発を継続し、これまで積雪域のみを対象としていた雪氷藻類モデル(snow algae model)とは異なる氷河および氷床上の裸氷域に適用可能な雪氷藻類モデルの開発を進める。具体的には、裸氷域のみで繁殖する藻類種を対象とした藻類繁殖モデル(glacier algae model)を開発する。本年度夏季も海外渡航禁止となる場合、研究代表者がこれまで取得してきた観測データおよび先行研究で報告されている観測データを基に本研究課題を進める。また、開発した積雪域の雪氷藻類モデルを利用して、赤雪発生による積雪のアルベド低下効果を全球で推定することも試みる。
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次年度使用額が生じた理由 |
2020年度に予定していた海外氷河調査が感染拡大防止の観点から中止となったため、観測費として計上していた物品費と旅費を翌年度に繰り越した。繰り越した予算は2021年度に予定されている海外氷河調査に必要な物品費、旅費として使用する予定である。なお、2021年度の海外氷河調査も中止となった場合、数値モデル開発を円滑に進めるために必要な物品を2022年度前期までに購入する予定である。
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