研究課題
2021年度は昨年度に続いて、雪氷藻類の繁殖を再現する数値モデル(Snow Algae Model)の開発を実施し、関連する成果の報告を行った。積雪域では、Snow Algae Modelに光合成による増殖過程と降雪被覆による繁殖抑制効果を追加、同モデルを陸域モデルに導入し、全球雪氷藻類モデルBio-MATSIROを構築した。これにより、当初計画していた赤雪によるアルベド低下効果を北極域のみならず南極を含めた全球で定量評価できるようになった。この全球雪氷藻類モデルに関する成果は国際誌に出版され、国内新聞をはじめとした各種メディアにも取り上げられた。また、裸氷域では、氷河氷床上の藻類繁殖を再現する2つの数値モデル(Glacier algae modelとFilamentous cyanobacteria model)を構築し、現地観測データを用いて検証した。コロナ禍で本年度の現地観測は中止となったため、検証用の現地観測データは、申請者の研究グループがこれまで集めた観測データで代用した。この裸氷域の藻類モデルは国際誌に投稿され、現在査読中である。加えて、氷河氷床上のクリオコナイトホール(生物由来の暗色物質で形成される円柱形の穴)の動態を地表大気情報に基づいて再現する数値モデル開発に成功し、現在論文準備中である。研究費は、これらの研究を遂行する上で必要となった計算機(ワークステーション)やノートパソコンの購入費用に充てられた。また、これらの成果報告に必要な論文出版費用、英文校正費用にも充てられた。
1: 当初の計画以上に進展している
研究2年目の2021年度は、申請者がこれまで開発してきたSnow Algae Modelを全球に適用することに成功し、世界初の全球雪氷藻類モデルを国際誌で公開した。当初の予定では、本研究の対象領域は北極域に限定したものであったが、開発したモデルは南極を含めた全球積雪を対象としたものである。そのため、赤雪によるアルベド低下効果を北極域のみならず全球で計算できるようになった。また、研究期間内に実施することが厳しいと考えていた裸氷域上で繁殖する微生物の数値モデル開発にも新しく取り組み、その成果を国際誌に投稿することができた。以上の理由から、本研究は当初の計画以上に進展している、と評価した。
当初よりも研究が進展したため、2022年度は裸氷域の微生物過程を再現する数値モデルも開発、論文投稿し、これまで進めてきた積雪域に加えて裸氷域まで包括して、雪氷生物活動に由来する雪氷アルベドへの寄与の定量評価を目指す。そのために、2022年度夏季はアラスカの氷河で現地観測を計画し、生物過程による影響を含めた裸氷域の物理アルベドモデル開発にも新しく取り組む予定である。この現地観測およびモデル開発は、国立極地研究所、気象研究所、千葉大学、名古屋大学、北海道大学の研究者と協力して効率的に進める。
2022年度当初はアラスカの氷河で現地観測を予定していたが、コロナ感染拡大の防止の観点から観測を中止した。そのため、使用予定であった予算の一部を翌年度分として請求した。
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すべて 雑誌論文 (2件) (うち査読あり 2件、 オープンアクセス 2件) 学会発表 (4件) 図書 (1件) 備考 (3件)
Journal of Geophysical Research: Biogeosciences
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Climate of the Past
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https://doi.org/10.5281/zenodo.6258671
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