研究実績の概要 |
ニトロ芳香族炭化水素類(NAHCs)は、光吸収能を示すため気候変動に寄与し、また人への健康影響も懸念される化学物質である。しかし、大気粒子中のNAHCs濃度をはじめ、時間変動、粒径分布、発生起源、生成・変質機構など、その実態は明らかではない。本研究では、都市や郊外で大気粒子の粒径別捕集やPM2.5の時別の捕集を行い、NAHCsと発生源指標物質を測定する。測定した化学成分および気象要素、大気中ガス成分とを比較することで、大気粒子中のNAHCsの発生起源、生成・変質メカニズムを評価する。また、発生起源の影響や二次的な変質進行度を示す新規指標として、NAHCs成分濃度比の有効性を評価することを目的とする 。 2021年度には、2020年度から引き続き都市部である名古屋市内において、有機エアロゾル自動計測器により、PM2.5の時別捕集と時別のOC、ECの連続測定を行った。名古屋と金沢において、粒子径別捕集を夏と冬に行った。 光化学オキシダントが比較的高濃度であった春と夏の試料について、GC-MSとLC-MS/MSにより、有機指標成分やニトロ芳香族炭化水素の分析を行った。3,5-ジニトロサリチル酸は5-ニトロサリチル酸のニトロ化による生成機構が考えられるため、これらの比を取って、春と夏を比較したところ、3,5-ジニトロサリチル酸(35DNSA)/5-ニトロサリチル酸(5NSA)の比(35DNSA/5NSA比)は両季節とも日中に高い傾向が見られ、また夏のほうが比が大きかった。大気中の変質の進行度を示すと考えられている、ピネンの分解物である3-メチルブタン-1,2,3-トリカルボン酸(MBTCA)とピン酸(PA)の比(MBTCA/PA比)も同じような傾向が得られた。この結果から、35DNSA/5NSA比を大気中での変質の進行度を示す指標として用いることができる可能性が示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
計画通り、夏と冬に、名古屋と金沢において、24時間ごとの粒子径別捕集(PM0.1, PM0.1-0.5, PM0.5-1.0, PM1.0-2.5, PM2.5-10, PM10<)を行った。 名古屋で捕集したPM2.5の時別試料(テープろ紙)を用いて、光化学オキシダントが比較的高濃度であった春と夏の試料について3時間ごとの有機指標成分とニトロ芳香族炭化水素の分析を、GC-MSおよびLC-MS/MSにより行った。データを解析した結果、本研究の重要課題である、ニトロ芳香族炭化水素の新規環境影響指標への展開について、3,5-ジニトロサリチル酸/5-ニトロサリチル酸比を大気中での変質の進行度を示す指標として用いることができる可能性を示すことができた。 以上のように、成分分析やその解析を行い重要課題について成果が得られつつあるなど、ほぼ当初の予定通り進めることができており、本申請研究は、現時点で概ね順調に進展していると考えている。
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