研究実績の概要 |
海洋においてFe,Ni,Cu,Zn,Cd,Pbなどの微量金属は,生物に必須もしくは毒性を持ち,これらの元素は生物地球化学的過程の影響を受けて循環する.本研究では,海水中微量金属の起源・動態を理解することを目的とし,以下の研究を行った. 大気エアロゾル:大気エアロゾルは,海水中微量金属の起源となる.能登半島で粒径別に採取した大気エアロゾルのNi, Cu, Zn, Pb濃度・同位体比の分析を行った.微細エアロゾルに含まれるNi, Cu, Znは,粘土鉱物などの天然物よりも軽い同位体に富み,これらの元素が化石燃料の燃焼などの高温過程で放出されていることが示唆された.Pbの同位体比は,粗大エアロゾルでは能登の道路粉塵や中国産鉛鉱物と近く,微細エアロゾルでは,中東産原油と近かった. 沈降粒子:沈降粒子は,海水中微量金属の輸送,除去において重要な役割を担う.日本海の深海(1000 m以深)で採取された海水中沈降粒子のNi, Cu, Zn, Cd, Pbの濃度・同位体比を分析した.沈降粒子中のNi, Cu, Zn同位体比およびNi/Al, Cu/Al, Zn/Al元素比を用いた解析によって,沈降粒子中Ni, Cu, Znの主な供給源は植物プランクトンが生産した有機物粒子と陸源の粘土鉱物であることが明らかになった.沈降粒子中のCd同位体比は,植物プランクトンや粘土鉱物に比べて軽い同位体に富んでいた.これは,炭酸カルシウム粒子へCdの軽い同位体が優先的に取り込まれるためであると考えられた.沈降粒子中Pb同位体比は,能登の大気エアロゾルと同程度であった.これは,大気エアロゾルに含まれるPbが沈降粒子によって深海まで運ばれていることを示唆する. 海水溶存態:東シナ海の溶存態Ni, Cu, Zn濃度・同位体比を分析し,東シナ海におけるNi, Cu, Znの起源を推定した.
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