研究課題/領域番号 |
20K19958
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研究機関 | 北海道大学 |
研究代表者 |
中屋 佑紀 北海道大学, 工学研究院, 助教 (60868735)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 腐植物質 / 有機物無機物相互作用 / 紫外可視分光法 / 固体3次元蛍光分光法 / 蛍光消光 |
研究実績の概要 |
腐植物質に関連する物質循環や環境汚染などの時間スケールは,腐植物質自身の生成や分解の時間スケールに関連していると考えられる.腐植物質の生成や分解には微生物・酵素の活動や,無機物との相互作用を伴う化学的な過程が含まれているが,本研究では特に化学的な過程に注目して模擬実験による速度論的追跡を行っている. 今年度は,腐植物質生成模擬過程の反応物としてのグリシン・リボース混合水溶液と鉄水酸化物ゲーサイトとの有機無機相互作用を,連続的な紫外可視分光測定によって調べた.グリシン・リボース混合水溶液のゲーサイト存在下での褐変過程を追跡したところ,褐変過程は1次反応速度式により近似でき,見かけの反応速度定数が得られた.これは,ゲーサイトを添加しない系での褐変過程に比べて早く進む反応であった.反応速度の温度依存性から活性化エネルギーを検討したところ,ゲーサイトが反応の活性化エネルギーを下げ褐変を促進させる触媒のように作用している可能性が示唆された. 一方,堆積物試料を非抽出で直接観測する方法として,固体三次元蛍光分光法を土壌試料に適用することを試みた.その結果,土壌の黒色度によって蛍光消光が起こっている可能性が示唆された.そこで,蛍光消光が発生する試料であっても蛍光物質の濃度を定量することができるような指標を検討するため,ウシ血清アルブミン(BSA)粉末に様々な濃度で顔料を添加した模擬蛍光試料での蛍光強度と拡散反射率を追跡した.その結果,蛍光極大強度と励起波長での吸光度の積が蛍光物質の濃度に比例する可能性が示唆され,これは土壌試料に対しても一部適用可能であった.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
今年度は堆積物の分析について蛍光消光を補正する手法を提案することができ,寒冷地堆積物の固体3次元蛍光分光法による非破壊分析に向けた進歩があったため.
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今後の研究の推進方策 |
腐植物質生成への鉱物の影響について模擬実験と測定を引き続き行い,有機無機相互作用を見かけの反応速度や活性化エネルギーなどの速度論的パラメータにより定量的に分析する.一方,堆積物試料や鉱物と複合体化した腐植様物質の定性・定量のため,三次元蛍光分光法を粉体試料に適用する試みを継続する.具体的には,蛍光性のタンパク質などに顔料を添加した模擬蛍光試料や腐植物質・粘土複合体を固体3次元蛍光分光法により測定し,スペクトルを定性的,定量的に扱う手法を検討する.また,実際の寒冷地堆積物の非破壊分析も行う.
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次年度使用額が生じた理由 |
新型コロナウイルス感染症の影響に伴い,研究成果を発表する予定であった学会が延期となり,参加費・旅費に充当する予定だった経費が使用されなかった.繰り越した経費は延期された学会の参加費・旅費に充当するほか,研究代表者の所属変更に伴う研究協力先との往来にかかる旅費の増加分を補填する予定である.
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