研究課題
エアロゾル粒子による氷晶形成は固液間の不均一反応であるために、反応場である粒子の表面積はその粒子の氷核特性に影響を及ぼす。本研究では、多様な形態を有する実大気中のエアロゾル粒子の表面積を拡散荷電法を用いて連続的に観測し、その氷核特性分析に基づいた氷晶形成パラメータを導出する。さらにそれらの粒子表面形態が及ぼす氷晶形成への寄与評価を目指す。今年度は、都市域(横浜市)と遠隔地(石川県珠洲市)における観測・粒子捕集体制構築および効率的な氷核特性分析のための解析の自動化を進めた。とりわけ遠隔地においても大気粒子試料を断続的に捕集するため、マルチポート電磁弁を用いた粒子捕集装置を作成し遠隔地観測所にて2020年9月より運用を始めた。COVID-19の影響により遠隔地における捕集装置設置や捕集サンプルの回収における日程的滞りは若干見られたものの、都市域と遠隔地において捕集はおよそ1週間ごとに継続的に行われている。回収された試料は順次エネルギー分散型蛍光X線分析およびイオンクロマトグラフィーによりその元素組成および水溶性イオン成分を測定した。さらに、液滴凍結法によりその氷核特性を測定し、観測される粒子表面積濃度に対応した相対的な粒子氷晶形成パラメータを導出し、分析された粒子特性と比較した。その結果、遠隔地と都市域の同期間における氷晶形成パラメータの傾向は類似するものの、遠隔地における氷晶形成パラメータは都市域よりも高かった。今後これらの考察はその粒子特性分析結果と併せてより深く進めるものの、少なくとも都市域から放出される粒子の氷晶形成への寄与が小さく、遠隔地で観測された粒子の方が相対的に氷晶形成粒子の濃度が高いことが考えられる。
2: おおむね順調に進展している
今年度計画された都市域(横浜市)と遠隔地(石川県珠洲市)における観測・粒子捕集体制構築および効率的な氷核特性分析のための解析の自動化が完了し、既に粒子捕集・粒子各種特性分析が行われているため。
現在までに構築された体制に基づいて観測、捕集、分析を定期的な観測機器の校正およびサンプル回収と併せて順次進める。一方で本研究にて導出できている相対的氷晶パラメータは、用いた観測装置が出力される特有の値を用いているために、これまでの研究との比較などに問題を残している。そのため今後はそれらの固有の値から粒子の活性表面積への換算することで、得られた分析結果及び観測結果に基づいて地域的・季節的な粒子特性の違いが及ぼす氷晶形成への影響についてさらに考察を深める。さらに粒子表面形態の基礎的な検証についても、室内実験における標準粒子を用いたバルク、個別粒子分析を通して明らかにしていく。
COVID-19に伴う緊急事態宣言の影響により、機器校正、試料回収のための遠隔地への出張業務が延期された。一方で、捕集装置修理における消耗品にかかる経費が予定よりも必要であることも明らかとなった。そのため次年度は今年度延期された遠隔地への出張および消耗品として次年度使用額を執行する。
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エアロゾル研究
巻: 35 ページ: 5-13
10.11203/jar.35.5