本研究課題では実大気粒子の氷晶形成に対する粒子物理化学特性、とりわけ粒子表面積濃度との関連性を明らかにする。本年度は、昨年度までに測定した都市域(横浜市)と遠隔地(石川県珠洲市)の氷晶核濃度・熱耐性氷晶核濃度と粒子物理特性(特定の粒径粒子数濃度や表面積濃度)や化学成分(金属成分・水溶性イオン成分・炭素成分)の関係性について、捕集期間ごとの相関解析や因子解析を実施することで考察を進めた。さらに大西洋上空で捕集した粒子試料を用いて粒子氷核活性パラメータと個別粒径粒子種との関係性についても測定・解析を進めた。 都市域と遠隔地では、期間全体の-20℃以上で活性する氷晶核濃度の変動は、Alなどの鉱物粒子成分と密接に関連していることを示した。一方、特定の粒径以上の粒子数や表面積濃度、生物起源粒子と関連が示唆される降水量や相対湿度との関係性はどの活性温度域においても見られなかった。また大陸からの粒子輸送の影響が低下する期間には、鉱物粒子成分との関係性が弱まり、両地点ともに特に熱耐性氷晶核濃度においてPbやKイオンなどの燃焼起源粒子の指標となる要素との比較的強い相関関係が得られた。 大西洋上空で捕集した試料の-20℃以下の氷核活性パラメータは、個別粒子分析によって得られた鉱物粒子とその表面積濃度、室内実験によって得られたこれらの氷核活性の組み合わせとの近似的な関連性を示した。一方、-20℃以上の温度域では、鉱物粒子と物理特性からの予測との乖離が見られ、陸域起源と考えられる生物起源粒子などの他の粒子が氷晶核として働いている可能性を示唆した。 これらの結果から、大気中の氷晶核濃度は、単一の粒子物理特性や特定の粒子種や化学成分濃度だけで説明することは難しく、表面積および化学成分を組み合わせた要素による複雑な関係性によって説明される可能性を示している。
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