研究課題
本研究の目的は、1)アイスコアを用いてグリーンランド氷床上における過去の鉱物ダスト粒子(以後、粒子と略す)の時間変動を復元することと、2)氷床周辺地域を起源とする粒子の時間変動が、同地域のどのような環境要因の変動と関係しているかを明らかにすることである。これらの成果は、温暖化に伴う氷床周辺地域の環境変動と、氷床表面における粒子変動の関係を明らかにすることで、粒子によるアルベド低下に伴う氷床融解のメカニズム解明に貢献する。令和2年度は、まず(1)の目的を達成するために、グリーンランドアイスコアの分析を実施した。最表面から深度65mまでのコアを、国立極地研究所の連続自動融解分析装置(CFA)を用いて分析した。CFAに接続された分析機器を用いて、各種化学成分や、粒子成分の高分解能分析を行なった。コアの融解液の一部から、コールターカウンターやイオンクロマトグラフを用いて粒子成分や溶存化学成分の分析を行い、CFAの分析値と相互比較を行なった。次に、これらの分析結果を用いてアイスコアの年代決定を行なった。測定成分の季節変動に基づいて、最表面から1年毎の層厚を推定した。火山噴火を起源とする成分のシグナルと、過去の火山噴火歴を比較することにより、火山噴火に基づく年代の制約を行なった。これらの解析の結果、分析したコアは過去約400年間をカバーすることが推定された。アイスコアから得られた粒子変動は、過去400年分の変動に相当することが明らかになった。(2)の目的を達成するために、流跡線解析を用いて、粒子の起源地域を推定した。使用する気象データが整っている、比較的最近の年代について解析を行なった。その結果、滞留時間が数日程度の比較的大きい粒子は、主に氷床周辺地域から飛来することが示唆された。アイスコアから得られた大きな粒子の時間変動は、この地域の環境変動と関係している可能性が示された。
3: やや遅れている
COVID-19の影響で、アイスコア分析室の使用が制限されたことにより、アイスコアの分析開始が半年ほど遅れたため。
アイスコア分析を継続するとともに、得られた分析結果の解析を進める。CFAで測定されたより多くの成分を利用して、より高い時間分解能で年代決定を行う。グリーンランド周辺が起源だと考えられる、大きな粒子の濃度や降下量に着目した時系列解析を行う。また、CFA分析から得られた大量の高分解能データを解析するために、解析プログラムの開発も同時並行で行う。氷床周辺地域における粒子の発生量に影響を与えると考えられる、積雪面積の解析に着手する。
コロナ禍の影響で、アイスコア分析が一時中断したことにより、分析費用が想定よりも少なくなったため。また同様の理由で、参加予定の学会がオンライン化したことにより、旅費がかからなかったため。次年度に繰り越した分は、主に分析やデータ解析用の物品購入費や、旅費として使用する予定である。
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Polar Science
巻: 27 ページ: 1-7
10.1016/j.polar.2020.100568
巻: 27 ページ: 1-9
10.1016/j.polar.2020.100557