研究課題/領域番号 |
20K19963
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研究機関 | 国立研究開発法人森林研究・整備機構 |
研究代表者 |
岩上 翔 国立研究開発法人森林研究・整備機構, 森林総合研究所, 主任研究員 等 (70612729)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | 山地源流域 / 降雨流出プロセス / 土壌水 / 地下水 / 間隙空気 / 封入空気 |
研究実績の概要 |
斜面内の間隙空気の挙動については主に室内実験において流出現象との関連が指摘されているものの,現地観測によりそのプロセスを示した例は未だほとんど無いと言える.そこで本研究では山地斜面における間隙空気の観測手法について検討するとともに森林小流域において降雨や流出,地下水位等の水文観測に加えて間隙空気の観測を行い,その流出応答との関係について示す.斜面内における間隙空気の挙動の実態や流出に影響を及ぼす条件等について明らかにすることができれば新たな知見になるとともに,得られた結果は洪水発生や斜面崩壊とも関連し,災害予測において新しい提言へとつながる可能性がある. 本研究では,土層内の間隙空気の観測手法を確立するため,間隙空気の挙動を空気圧として捉える簡易な斜面内圧計を作成し,その有用性を室内実験および現地観測において検討する.さらに地下水位測定用の観測井において孔内圧を測定することで斜面スケールでの間隙空気の挙動の観測を行う.流出応答や地質条件の異なる 2 つの観測流域(筑波・常陸太田)において,降雨流出応答および斜面内の空気の挙動について観測を行うことによって間隙空気の挙動と流出応答の関係について明らかにする. 当該年度は森林総合研究所の筑波共同試験地・常陸太田試験地の2つの観測流域において,土層内の間隙空気の観測を強化したとともに,常陸太田の観測井において斜面内(基岩内)の間隙空気の観測を開始した.降雨量,流量,土壌水分量等のデータと合わせて,本研究で目的としている土層内・基岩内に間隙空気が封入される現象を捉えたデータが得られてきている.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当年度は森林総合研究所の筑波共同試験地と常陸太田試験地において,既存の機器の整備,および既存の機器を利用した観測を開始したとともに,今年度新しく設置された観測井における観測を開始した.具体的には土層中の間隙空気圧の観測は筑波共同試験地と常陸太田試験地においてそれぞれ 6 地点ずつ,自作の間隙空気圧計を用いて行っていたものを継続できるよう整備した.間隙空気圧計は周囲の土層内の間隙空気との接点となるスクリーン部分が完全に水没してしまうと土層内の間隙空気との接点が無くなり,測定不能となる.このため間隙空気圧計内の水位を注意深く測定する必要がある.本研究では間隙中の圧力を扱うために,圧力補正等が必要となる圧力式以外の方法を用いて間隙空気圧計内の水位を測定するために,各間隙空気圧計内に静電容量式の水位計を設置してより直接的に水位の測定を開始した.当年度使用した予算の大半はこの静電容量式水位計に使用した.また先行研究では封入空気の形成条件を考えたときに間隙空気の応答に対して降雨パターンが重要となるにも関わらず,林外雨は関係性が低いことが指摘されたので,より詳しく雨との関係を評価するために各間隙空気圧計のすぐそば 30 cm の距離に雨量計を設置し,林内雨の観測を開始した.さらに新たに設置された常陸太田試験地の観測井 (深度 3 m から 50 m までのものを斜面の上・中・下 3 ヵ所に計 10 本) における地下水位の測定と孔内圧の測定を開始した. 観測井と渓流水・湧水の水サンプルの採取を行った。採取された水サンプルは EC・pH・各種無機溶存イオン・シリカ・安定同位体比等の測定を行う予定である. 実験の準備として,当年度の観測結果と過去の観測結果を合わせて室内実験を行う際に必要となる降雨条件等について検討を開始している.
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今後の研究の推進方策 |
当年度の作業によって,本研究で目的としている現場観測に必要な体制がおおよそ整ったと考えられ,今後は月 1 度を基本とした現地での保守点検・データ回収を行い,統計的な解析ができるだけの封入空気形成イベントのデータを蓄積させたい.十分なデータを得ることで,斜面内の間隙空気の挙動,斜面内のどういった場所にどのように間隙空気が封入されるのか,そして流出応答との関係や降雨パターンとの関係について明らかにしていきたい.またそのためには土壌水分の観測においてもう少し現場の整備が必要であると考えている.さらには斜面内のどういった場所に注目すべきかが見えてきたところで,来年度以降、現在の観測体制を拡充していきたいと考えている. 並行して室内実験の準備を進める.現地観測における間隙空気の観測例がほとんど無いこともあり,観測方法の有用性についてより明確にするために,さらには現在用いている自作の間隙空気圧計を改良するためにも人工降雨装置を用いた室内実験を行う準備を進める.
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次年度使用額が生じた理由 |
次年度使用する物品費として,観測体制の拡充のために必要となる圧力センサー,水位計,雨量計,土壌水分センサーに用いる.それぞれ故障した際に欠測期間を小さく抑えるためにも予備として必要な物にも使用する.
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